何はともあれ大宴会

「凄いご馳走ですね!フェルゼンさん」

「おうよ!

 久しぶりに腕を振るっちまったわい!」


 食堂の一角を貸し切り(まあ他に客も居ないんだが)フェルゼンさんはオレ達の歓迎会を開いてくれた

 最初はそこまでして貰う訳には、と断ったのだが先程の詫びと言われては断り切れない

 折角なのでご馳走になる事にした


 用意された料理はどれも旨そうだが

 母さんの料理と違い如何にも男が作った!

 と言わんばかりに油とスパイスがタップリ使われている

 こういった料理は食べた事が無いので弥が上にも期待が高まる


「ウチのダンナの料理は格別よ〜」


 そう言いながらザフィーアさんが大きな樽を抱えて運んで来た


「え〜とザフィーアさん、それは・・・?」

「宴会と言えば酒だろう?

 これはアタイからの詫びの印さね

 さっきはからかっちまってスマンかったね!」


 一応この場に居る全員が酒を呑める年齢だがたった5人に大樽って・・・

 どんだけ呑むつもりだよ!

 既に波乱の予感しかしない


「こいつはアタイの故郷の酒でね

 ちぃーとばっかしキツ目だけど呑み易い良い酒だよ」


 えぇ〜オーガーのお酒って聞いただけでもアルコール度数高そう

 しかもキツ目とか言っちゃってるし・・・


「おいおいザフィーア良いのか?

 そいつは特別な事があった時に開けるつって大事にしてたヤツじゃねーか」

「だからこそ今日開けるんじゃない

 アンタの旧友の息子なんだろ?

 だったら全力で歓迎しなきゃあ女が廃るってもんさ!」

「そうか、すまんなザフィーア」

「良いって事さアンタ」


 ああ、これ逃げられないヤツだ

 そんな話し聞かされて呑まないとか許される訳無いじゃないですか〜


「父さま今日はわたしも呑んで良いのか!」

「おう!マルモア

 好きなだけ呑んで良いぞ!」

「でも主役はリオン達だからね!加減しときなさいよ」

「母さま解ったのじゃ!」


 あ〜すげー呑まされる〜

 有り得ない量呑まされる〜


 ザフィーアさんが樽の木ブタを豪快に素手で叩き割りジョッキで直接汲んで皆の前に並べる

 ジョッキには並々と白く濁った酒が入っていた


 これは・・・見覚えが有るな


「じゃあ酒も料理も揃ったって事で始めるぞ!

 リオン、レイカ良く来てくれた!

 旧友の息子夫婦に乾杯!」

「「「「かんぱーい」」」」


 取り敢えず一口舐める程度呑んでみる

 ああ、この香りとほんのり甘い味わい

 間違い無いこれ、どぶろくだわ

 この世界にも米って有ったんだな〜

 生まれてこの方お目に掛かって無かったんで存在しないと思ってた


 フェルゼンさんご自慢の料理も一口

 油の乗った厚切り肉にタップリの粒胡椒

 味付けはオリジナルソースで主張し過ぎず肉の旨味を際立たせている

 これは酒に合う!

 もう一口酒を口に含み良く味わう


 美味い酒だ


 だがこれオレの知ってるどぶろくよりかなり強いな

 口当たりは甘く呑み易いが喉を通る時ひりつく感覚が有る

 って言うか断じてジョッキで呑むような酒じゃ無い

 グラスでちびちびやる酒なんじゃない?普通


「「「くはーーー美味い!」」」


 フェルゼンさん、ザフィーアさん、マルモアちゃんまで!もう呑み干してサッサと2杯目を注いでいる

 ドワーフとオーガーだもの

 酒に強いんだろうと思ってはいたけどさ!


 レイカは大丈夫かな〜と横を見れば


「あひゃ〜りおんきゅんこれおいしいね〜」


 うん、安定のレイカ

 最初の一口で酔っ払ってる


「ん?リオン酒が進んどらんな?

 口に合わんかったか?」

「いえ!決してそんな事は!」


 オレは覚悟を決めジョッキの半分程を一気に流し込む


「ふふん、なかなかイケる口じゃないの

 ほらもっと呑みな!」

「おーリオンわたしと呑み勝負するのじゃ!」


 あれおかしいな〜

 半分呑んだ筈なのに元に戻ってる〜

 わんこそばならぬわんこ酒か?

 注ぐのはせめて一杯飲み切ってからにしません?


「おう?マルモアと勝負するのか?

 言っとくがウチの娘は強いぞ」

「勝負とかそんなつもりは・・・」

「ぬ、そうかタダではやらんと言うのだな?

 なら、もしマルモアに勝ったら宿代はタダにしてやるってのはどうでい」

「あら面白いじゃないの

 じゃあマルモアが勝ったら?」

「リオンにはわたしの友達になって貰うのじゃ!」

「いやですから勝負なんてしませんって!」

「何!まだ不服か!

 解った!オマエが勝ったらマルモアを嫁にくれてやる!」

「オレ結婚してますけど!!!」

「じゃあマルモアは愛人かい?

 剛気だね〜アタイはそう言うの嫌いじゃない無いよ?」

「二号さんなのじゃ!」

「何でそんな話になるんですかー!」


 さてはアンタら平気そうな顔してるけど結構酔ってるな!

 良く見りゃ樽の中身が半分近くまで減ってるじゃん!

 いつの間にそんな呑んだの!?


 でも考えてみればオレが勝てる訳無いし、負けた所でマルモアちゃんの友達になるだけだ

 適当な所で負け宣言しちゃえば良いだけの事だったよ


「解りましたよ

 でももしオレが勝ってもマルモアちゃんを貰ったりはしませんからね」

「なにー!貴様俺の可愛いマルモアに魅力が無いと言うかーーー!!!」

「大事な娘を景品になんかするなよ!」

「うへへ〜りおんきゅんがんばりぇ〜」


 レイカさんやオレが頑張っちゃうと新婚の身で愛人が出来ちゃうかも知れないんですが?


 まあ結局負けちゃうんですけどね〜

 最初は適当に負けようって思ってたんだけどその内ムキになっちゃって結構『頑張った』んだけどさ・・・


 もうこの人達なんなの?

 呑んでも呑んでも一向にペース落ちないし

 仕舞いには酔い潰れてるオレを尻目にひと樽飲み切ってたよ!


「うむ、流石に同じ酒ばかりだと違う酒も欲しくなるな」

「そうさね〜次のはアンタに任せるよ」

「まだ呑むのじゃー」


 翌日、案の定オレとレイカは二日酔いで部屋から一歩も表へ出る事が出来なかった


 父さんゴメン仕事を片付けるのはもう少し先になりそうです・・・

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