2人でトレーニング-1

「じゃあ明日昼過ぎに集合な」


 レイカの家から帰り際そう声を掛ける。


「リオンクントイッシヨニトレ-ニングリオンクントフタリッキリデフタリノハジメテノキョウドウサギョウ……」


 こいつ聞いてるのか?

 なんかずっと上の空でブツブツ言ってんだが?

 チョットこえーよ……


 少し長居をし過ぎた。

 オレは来る時よりもハイペースで自宅に向かう。

 家に着く頃には日も傾き父さんも帰って来ていた。


「ゴメン父さん、遅くなりました」

「いや父さんも今帰った所だ。

 何処へ行ってたんだ?」


 オレはレイカの家に行ってた事と明日からレイカもトレーニングに参加する事を伝える。


「そうかそうか。

 ではレイカ用のトレーニングメニューも考えて置かないとな」


 父さんはフッフッフッと不適な笑みを浮かべながらそんな事を言っている。

 ……レイカ死なない程度に頑張れよ


「そうだリオン。今後剣やオノを握る時はこれを使いなさい」


 そう言うと父さんは革で出来た手袋をオレに手渡して来た。

 オレの手サイズの小さな手袋だが剣の柄を握った時に当たる部分が補強されている。

 これなら豆に苦しまされる事は無いだろう。


「ありがとう父さん!」


 オレは早速手袋を着け剣を握る。

 昨日潰した豆がまだ少し痛むが問題無く剣も振れそうだ。


「だが素振りは明日からだ。

 痛みが有ると余分な力が入って不必要に消耗するからな」


 早く剣を振りたい気持ちでいっぱいだったが父さんの言う事にも一理有る。

 ここは大人しく従おう。


 その後は軽く体を動かして本日は終了。

 母さんのご飯は今日も最高だった。


 翌朝。

 朝食が終わって片付けをしていると、コンコンっとドアをノックする音が。

 誰だ? こんな朝っぱらから。


 母さんがドアを開けるとレイカが頭を深々と下げ、


「おはようございますお義母様。

 本日からリオン君と一緒にトレーニングをさせて頂く事になりました!

 よろしくお願いします!」


 いや確かに言ったけど昼過ぎに来いって言ったじゃん。

 つーかなにその格好。

 やたら身体のラインが解るピッタリしたドレスで胸元も大きく開いてるし。

 コルセットでも巻いてるのか腹肉どこやった!

 つーかやっぱ乳でけー

 どう考えても体動かす格好じゃ無いよね?

 それならいつものダボダボローブの方がマシだよ!


「あ、えーと、はい。

 お話は伺ってますが、レイカさん?

 トレーニングは午後からでは?」


 見ろ母さんも明かに引いてるよ。


「はい! 存じてます!

 午前中はお義母様の魔法授業が有ると聞きまして、是非私も参加させて頂けたらと思いこの様な時間にお邪魔させて頂きました!」


 いやオマエ設定では魔法使いだろ?

 今更授業聞くっておかしいだろ。


「お義母様は以前、王立魔法学院の教師として誘われた事が有ると聞いております。

 私も魔法使いとしてはまだまだ半人前。

 どうか私にも教えを授けて下さい」


 言いながら更に深く頭を下げる。

 わー胸元だけじゃ無く背中も丸見えだ〜


「わかりました。そこまで言うのでしたら同席する事を認めます。

 ただし内容はあくまでリオンに合わせたものになりますので、貴方が必要としている知識が手に入る保証は有りません。

 良いですね?」


 とうとう母さん根負けしちゃったよ。

 なんでコイツ突然やる気になってんの?


「それはそうとその格好は……

 その……少しこの場には不釣り合いでは有りませんか?」

「大丈夫です! 着替えを持って来ています!」


 そう言うと持ってた鞄からいつものローブを取り出した。

 だったら最初からそれで来いよ……


 着替えたレイカと一緒にテーブルに着き母さんの授業を聞く。

 今日の授業内容は魔法の歴史。

 古代魔法と言われる現在では使われなくなった魔法について。

 現在一般的に使われている魔法よりずっと高度で強力な魔法。

 万物を操り、無から有を創り、死人さえも蘇らせ、時間すら支配出来たと言う。

 今は、その人には余りある力を恐れ禁呪とされ伝える者は居ないのだそうだ。


 しかし、実は母さんは古代魔法を使えるらしい。

 母さんの母さんつまりオレのお婆ちゃんにあたる人から教わったと。


 なぜオレが知っているかと言うと地下の隠し部屋に母さんの手記が有ってそれに書かれていたのだ。


 母さんと父さんがまだ冒険者だった頃。

 一緒に旅をしていた仲間がもう1人いたらしい。

 その人は旅の途中不慮の事故で命を落としたのだが、もしその時古代魔法を使っていたら助けられたかも知れない、と。


 父さんも母さんの力は知っていたけどあえて使わせなかった。

 その力は強大過ぎる使えば何が起きるかわからない。

 何より自然の理に背いてはいけない、と。


 母さんの苦悩が綴られた手記をオレは最後まで読む事が出来なかった。


「さあ、今日はここまでにしてお昼にしましょう」


 母さんがパタンと本を閉じながら言う。


 ところでレイカ……

 オマエ授業中ずっとオレの事見てただろう。

 母さんも途中から気が付いてたぞ!

 気が散るからやめてくれ。


「お義母様! お手伝いさせて下さい!」


 言うが早いかレイカは母さんの隣に並んで昼食の支度を始める。

 その姿だけ見ればまるで母娘のようだ。

 母さんも満更じゃ無いって顔してるな。

 実は娘が欲しかったとか?

 オレも母さんを手伝った方が良いかな?

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