第23話


 鍋がぐつぐつと音が鳴り始める。

 ピーマン、ニンジン、トマトを適当にさっと切ったものをすりおろしたニンニク、ショウガと共に、ハーブを水と一緒に煮詰める。

 ある程度、一煮立ちしたら、塩と粗びきコショウで味を調える。

 中に小さく斜め切りをしたウィンナーを入れ、弱火にする。

 その後は、お皿に盛り付け、パンを加え、さっと浸して食べるとこれが中々に美味しい。


 他にも、オリーブオイルに酢、レモン汁、バジルなどを混ぜた後、みじん切りにした玉ねぎ、レタスとミニトマトと茹でた鶏肉をバラシて混ぜ合わせる。

 簡単なチキンサラダの完成だ。


 「姉さん、出来たよ」


 いつものように、姉さんの肩を持ち、少しずつテーブルの方へと歩かせていく。

 何も言わない姉さんだけど、ちゃんと食事をするという事は覚えているみたいで、食事を用意するとゆっくりと食べてくれる。

 わざわざ食べさせる事をしなくてもいいのが、責めての救いと言えるが、それでも生気の宿っていない瞳と見合わせながら食べる食事は、正直ウンザリだ。


「…」


 黙って囲む食事程楽しくないものはない。

 3年前は、美味しいね。って、言って食べてくれたのに、今はただ口に運んで生きる糧を得てるだけだ。


「なぁ、姉さん。僕は―――」

「………」


 スープの啜る音だけが響き渡り、僕はそこで口を閉じてしまった。

 互いに、静かに何も無い食事を終え、片づけをし始める弟。

 それに対して、ただボーっと俯きテーブルを見続けるシルバの悲しい瞳は、いつまで経っても目線をずらす事は無かった。


 片づけが終えると、夜は既に更け切っており、暗闇の中、カンテラの炎が優しく照らしていく。

 

「姉さん、お休み。僕はまだ、やる事があるから」

「……」


 姉さんは、お休みというと手を振ってくれる。

 意識があるのか、それとも無意識で行ってるだけなのかは分からないが、僕達姉弟にとっては唯一の挨拶だ。

 

 姉さんが自室で、寝たのを確認した僕は、部屋へと戻って、手元に持っていたカンテラを置いて、机と睨めっこし始めた。

 微かな希望だけで良い。様々な文献を読み漁り、一つ一つ効果がありそうなものを絞っていく。大抵は失敗に終わるのが関の山だが、ここ最近気になっている文献があった。

 それは、精神と肉体を解離させ、その後精神を浄化するという物。

 

 旗から見れば、狂科学者と思われても仕方は無いだろう。

 だが、僕にとってはたった一人の家族だ。何としてでも治してあげたい。

 姉さんの笑顔を見たい。


 今までのような、ただ変わらずの二人だけの生活を取り戻したい。

 そう思うのが、狂科学者だというのなら、それでも僕は構わない。


 「―――くそっ!」


 勢いよく、机を叩いてしまった。

 出来る訳が無い内容ばかり、今の技術では到底成しえないオーバーテクノロジーである事。

 

 機械ってなんだ?遠心分離機ってなんだ?

 固体と液体を分離させて、その後肉体の構築を行うってどういうことなんだ?

 人の肉体と血と分離させて、再錬成するってことなのか?


 この世界に、錬金術はあれど、あれは金を作る為だけの技術だぞ!

 しかも、誰一人金を作り出した術者など居ない。

 ハッキリ言って嘘ばっかりの本じゃないか!


 「糞…クソ…っ!」


 僕は焦っていた。

 ―――この病の怖ろしさは、。それに怯えてる僕は、ずっとずっと探し続けていた本が余りに虚言染みた内容。

 ふつふつと湧き上がる怒りと焦りで、正直、神にだって祈りたい気分だった。

 

 「どうしろってんだよ…」


 僕は呆れ、机の上で項垂れていた。

 時間は無い。後少しで、審議の時が来てしまう。

 それが来てしまえば、二度と―――


 


chapter3

 【真意と虚言は表裏一体ではない。正義と悪が表裏一体なら、正義が勝つだろう?】

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