第19話

「うふっふふっあははっ」


 一つ、一つその小枝を折るように男の指をへし折っていく。

 私は狂ってる。狂ってしまった。


「ぎっあぁっ!」


 叫ぶ声が、心地よい、快感を覚える程の悲鳴に私はただただ嘲笑う他無かった。


「この…っ悪魔め…」

「あら、悪魔なのはどちらなのかしら?」


 次は足を曲げてやった。内から響く骨の壊れる音が心地よい。

 痛みで悶え苦しむ姿を見て、私は紅潮していた。


「ねぇ、マーさんを何処にやったの?」

「教える義理は――」


 駄目よ。そんな言葉を聞きたいんじゃないの。


 ベキッ


「がぁっ!?」

「ちゃんと、答えて…?」

「ぐっ…ふ、ふん。私は――」


 バキッ


「絶対に…っ」


 ―――小賢しい蠅ね。

 私は、首を持ってそのまま勢いよく

 ゴキッ

 あーあ、お人形さんになっちゃった。

 もう動かないや、あははっ


 あはははははははは


 月夜が照らす中、私の目の前は赤い鮮血で覆われていた。

 真っ赤で、美しくて、それなのに、なんで涙が止まらないの。


 私は私で居たかったのに。


「シュ、リ…?」

「…」


 少年は怪訝そうな顔で、私を見つめてきた。

 いや、それは恐怖に満ちた顔だったかもしれない。


「…なぁに?」

「お前は本当に…


 内なる心臓が高鳴り、跳ねる音と共に私は少年に嘘をついた。


「私は私よ。―――それとも、私を私ではない証明をするのかしら…?」


 彼女ガールフレンドとして悲しいわ、あははっ


「…っ」


 噛み締めるような唇で、その少年は悟った。

 そこにいるのは、シュリであっても、シュリに近い何かでしかない。


「シュリ…」

「――ねぇ、なんで、私の名前をの?」

「…君が僕の魔力を吸ったからだ。だから――」


 そう少年が言いかけた時だった。

 私の身体は切り裂かれるような痛みを襲っていく。


「あぁあ゛あぁぁああ!!」


 痛い痛い痛い痛い

 悶え、倒れこんでいく。


 熱い熱い熱い熱い

 吐き気と共に、頭痛が襲ってくる。


「シュリ!!」


 少年は、一突きされた痛みに耐えかねながら、シュリのもとへと這いずっていく。


「ああ…っあぁあ!!!!」


 記憶が失われていく。

 今までの何か、大事だった筈の何かが頭の中で、煌めいて堕ちていく。

 私が何者なのか。私が誰なのか、全てが消えていく。

 埋葬されていく。

 見えなくなっていく。

 私は―――――



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺は、あの後、もう一人の見回りの兵士に見つかり、奇跡的に一命を取り留める事が出来た。

 病室で目覚めた俺は何故、俺を助けたのか。と、その兵士に聞くと、元々、あの軍服の男にはウンザリしていたらしい。

 マーを連れて行った事に関しても国王の命に背き、動いていたとの事だった。

 俺はというと、あの力が無くなった為に、国王からは残念がられた。

 だが、無いものはどうしようもないという事と、迷惑をかけたと数年は保護してもらえる事になった。


「ジートリー・シュリ 13歳 ここに眠る…か」


 開けた丘の上、俺は哀愁を背中に漂わせ、佇んでいた。

 風で煽られ、周りに埋められた花々が舞っていく。

 それに驚いた蝶や鳥が、羽ばたいていった。


「なぁ――お前のおかげで、俺は誰なのか。分かったよ」


 水筒を開けて、水を墓石に掛けていく。


「俺は―――通。 だ」


chapter9

【………】




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