第13話

 朝になり、力強い光がシュリへと注がれた。

 疲れた小さな身体は、強く照らす天の恵みによって起こされ、まだ眠そうに眼を擦る。


「おはよう、シュリちゃん。朝ご飯はここに置いておくよ」


 宿屋の店主が丁度、入ってきて、置かれたテーブルの上に暖かな食事を置いていった。

 小さなお盆の上を見ると、ゆっくりと湯気が立ち上るホットミルクに、猫模様がプリントされたお皿があり、そこには、食べやすくカットされたトースト。

 トーストには付けて食べる為のジャムとマーガリンの容器が近くに置かれていた。


「あ……」


 まだ、寝ぼけているのか。可愛らしく欠伸を漏らしては、大きなベットからゆっくりと降りようとした。

 椅子の上に座り、届かない地面に対して、足をパタパタさせながら、まずは一口ミルクを喉へと通す。


 優しい味がシュリを包み込む。それと同時に、コップの裏で隠れて見えてなかった。瓶詰された蜂蜜が見えた。

 どうやら、これを入れて飲んでほしかったようで蓋の上にはおまけだよ。と書かれた紙が書いてあった。


 粋な計らいに対して、シュリはうれしく思い、蓋を開けた後、近くにあったスプーンで一掬いする。

 そして、掬った蜂蜜をミルクの中に入れ、溶かしていく。甘い香りが際立ち、心地よい朝へと変貌する。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 朝食を終えた後は、のんびりとベッドの上でシュリは考え事をしていた。

 これからの事は勿論の事、自分が生きる為の獲物も探さなくてはならない。


「塞ぎ込んでても仕方ないよね」


 深く考える事を辞めたシュリは、独り言を呟き、小さめのショルダーバッグに道具や金貨を入れ、町へと赴いた。


「さぁ、いらっしゃい!今日はお安くしとくよ!」

「はぁ!?これでこの値段?バカ言ってんじゃないよ!もっと安くしておくれ!」


 喧噪染みた賑わいを見せるバザーでは、様々な商品が売り買いされている。

 アクセサリーから骨董品、食べ物など見渡す限りでは、この町が如何に賑わってる場所なのかが見て取れる。


「お嬢ちゃん、どう?このアクセサリーとか君に似合ってると思うよ」


 客引きに合うのはごめんではあるが


「うぅん、要らない。それよりおじさん、この近くで魔機の道具売ってるお店知らないかな」

「魔機ぃ?んぁー、そうだなぁ。この周辺はあんまりそういうのは売ってね――あぁ、一つあるぞ。すげぇ、変な奴が店のオーナーだけどな」

「ホント?じゃあ、教えてほしいな」

「気を付けろよ?なんでも、気に入らない相手なら切れた挙句、殺そうとしてくるって話だからな。まぁそれなら―――」


 所詮、そんなのは噂に過ぎない。店主から教えてもらった道へと歩き始め、立ち寄る気配がないのか、蜘蛛の巣やジメジメとした空間がより一層不気味さを醸し出している。


「すみませーん―――」


 教えられた場所には、看板も無く、ただ一つの大きな扉があるだけ。

 シュリはノックをするも、返事は返ってこない。


「…お休みなのかな」


 仕方なく、帰ろうとすると、扉が静かに開き始める。

 出てきたのは、シュリと同年代ぐらいの子供だった。


「どうした。ちんちくりん、何か、店に用か?」


 ―――?

 辺りを見渡すシュリ。それに対して、その子供は言葉を続ける。


「お前だよ、お前。ちんちくりんじゃねぇか。胸もねぇし」

「はぁ?初対面に向かって、その態度は無いんじゃないの!?」

「ちんちくりんは事実だろ。それとも、胸も無けりゃあ脳味噌もねぇのか?」


 あぁ、あの店主はこういう事か。そもそも、店として成り立つ訳がない。

 こんな人を馬鹿にするような奴が、まともに商売する所か、相手の神経を逆撫でしてくるのだから。


「あっ、そう。確かに用はあったわ。でも、貴方みたいなガキが出てきた所でまともな物は売ってなさそうね。邪魔したわ」

「―――んだって…?」

「だーかーら、貴方みたいな―――」


 同じ事を言おうとしたその瞬間、空を切るナイフ。

 そして、そのナイフはシュリの頬を掠っていく。


「なっ―――」

「てめぇえええええ!俺の事、クソチビガキっつったろ!ぜってぇ許さねぇ!」


 言ってないわよ!というものの、相手は怒りに任せて、とにかく投げてくる。

 中には、明らかに殺す気満々で投げてきた大きめの包丁

 何処に仕込んでたのかは分からないが、出てくる大量の投げものに対して

 シュリは必死に躱していく。


「ちょ、待って!ねぇってば!」


 サキュバスとしての身体能力がある為なのか、躱す事は容易。

 が、レンガの壁に突き刺さる包丁や投げナイフの数々は、明らかに魔力の込められた特殊なものだった。

 そんな物騒な武器、刺さってしまえば、それこそ何が起こるかなんてわからない。


「うっせぇ!人をチビなんて言ったからこうなんだよ!!!」


 ふーふーと、息を切らし、とうとう投げものに困ったのか、腰につけていた魔機である銃器をシュリへと向ける。


「あほなの!?ねぇ!そんなもんここで使ったら!」

「アホつった!もう知らねぇ!!問答無用!ぶっ飛―」


 打ち込もうとした、その瞬間だった。


「こんのアホが!!」


 後ろから出てきた母親らしき人が、勢いよく彼の頭に拳骨を落とす。

 一撃ノックアウトだ。


chapter2

【切れた母親は何をするか、分からない】

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