たとえ見つけられなくても

@wzykn_42667

第1話

まさか本当にあったとは……奴隷の街グルスティブ

いや、街と言うよりはひとつの国…か

「あのー」

!?

思考に集中しすぎていて気配に全く気が付かなかった。

「えーと…」

まずいまずい早く何かいい言い訳を考えないと…

「あの、外の世界から来た人ですよね?主様からこの世界の案内を任されましたシュオンと申します。気軽にシュオンとお呼びください」

「主様?」

「はい!この世界の創造主であり私の主。アルバド様です」

アルバド………確か言い伝えでは世界から追放された神の名前だ。言い伝えが正しければ追放後に自分の世界を作ったということか。

「あの、よろしければ貴方様の名前をお聞きしても?」

「あ、ああ。俺の名前は怜央れおだ」

「怜央さん」

「呼び捨てでいい。俺だけ呼び捨てにするのもなんか気が引けるからな」

「で、では…れお…」

「おう。なんだ?」

「これから案内をしたいと思うのですが、どこか気になるところはありますか?」

「そうだな……シュオンのおすすめの場所とかあるか?この世界のことはほとんど知らないから、行きすがら色々聞きたい。」

「んーおすすめ……ならあそこが!……でも」

「どうかしたか?」

「いえ、結構な距離があるのでもう少し近場にしようかと」

「体力には自信がある。シュオンが良ければそこへ連れて行ってくれ」

「わ、わかりました。疲れたらすぐに言ってくださいね!」

「おう。」

チャリ

金属のぶつかる音がこの空間に響いた。

ふと足元を見るとシュオンの足には足枷が嵌っていて、右足から伸びた鎖は左足に繋がっていた。

「お、おい!」

引かれた手に驚きながらシュオンはこちらを見ている。

「そ、それ…」

「?」

俺の視線を辿り足元を見たシュオンは納得したように頷いてから

「外の世界だと珍しいんでしたっけ?この枷は」

と言った。さもこの世界ではしているのが当たり前かのように。

俺は驚いて周りを見渡した。しかし枷をつけている人間はシュオン以外見当たらなかった。

ホっと胸をなでおろしながら、枷を外すためにしゃがみこんだ。

「動きにくいだろ。今外してやるからな。」

「!?な、何をするんですか!」

「外すんだよこれを!」

「そんなことしなくていいです!必要ありません!」

「必要ないって……痛いだろ。それに見ていて痛々しい。」

「この世界ではこれが普通です!」

「周りに枷をしてる奴なんて1人もいないじゃないか!」

「それは…普通、奴隷というものは外にいる方が珍しいんです」

「枷を外さないようにそう教えこまれてるんだな。可哀想に…」

「本当に話の伝わらない人ですね。怪我しても私のせいじゃないですからね!」

どういうことかと思って顔を上げた瞬間。

「ぐっ……」

腹部に激しい痛みが走った。視線を戻すとシュオンの拳が目の前にあった。

その時やっと俺はみぞおちに腹パンされたことを理解した。

よろめきながら体制を立て直そうと後ずさった瞬間、ありえない光景を目にした。

おおよそ足枷の付いた状態ではできないような軽やかなステップを踏みながら俺と距離をとるシュオンの姿を。

「あなたが悪いのですからね?いきなり私の日常を壊そうとしてきたんですから。」

「日常…だと?」

「そうです。この足枷は誰かの奴隷である証明です。この足枷が外れる時は、アルバド様に売られる時かこの世界の終わりだけです。私はアルバド様の奴隷である今が幸せです。何も知らないとはいえ、勝手に私の幸せを壊す存在は許しません。」

「幸せ…こんな枷が…」

「理解してくださいましたか?」

「……洗脳されているとしか考えられん。今すぐお前の主に文句を言いに行ってやる!」

「はぁー……ほんっとうに話のわからない人ですね!まぁ、元々案内が終わったら連れていくつもりでしたが、あなたはこの世界のことを知らなさすぎます!予定通り案内をしながら説明をしますから、付いてきてください。ひと通り案内し終わってもその考えが変わらないようなら、その時文句でもなんでも言ったらいいんじゃないですか?まあ、正常な思考ができる人ならそんな必要は無くなると思いますけどね。」

「それ遠回しに俺の事バカって言ってる?」

「さぁ?まだ出会って30分も経ってませんから。ただ、人の話を聞かないので。」

「それは…悪かった。」

「いいですよ。外の世界とこの世界に大きな違いがあるのはわかっていますので。これでも何人も案内してきてますから。ただ、いきなり枷を外そうとしてのは初めてですけど。」

「うぅ…」

「いじめるのはこのぐらいにしてそろそろ行きましょうか。周りの目もありますし。」

「そ、そうだな。」

周りを見るといつの間にか小さな人だかりができていた。

頬が段々と赤くなっていくのを感じながら、シュオンに連れられてその場を後にした。

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