第228話「カルマカメラマン」
遠路はるばる参勤交代か、と間違いそうになりながらも人目に晒されながら辿り着いた。
案外本格的な仕様となっていて、写真を撮った後すぐに加工ができるプリクラ的な要素も兼ね備えているようだった。
翔は産まれてこの方、一度としてプリクラというものを体験したことはなく、写真の加工という行為すらもあまりよく分かっていないのだが、兎も角も雰囲気が楽しそうだったので翔の心も同じように盛り上がってくる。
「次の方どうぞ」
「二人です」
「カップルさんですね。羨ましい限り……。おっと、ではこちらへ」
彼女が欲しいらしいスタッフ役の生徒に案内されて通されたのは一番大きなブースだった。
写真撮影は教室を目一杯に使い、尚且つ回転率をあげるために幾つかのブースへとわけられている。翔達はその中でも特に大きなブースへと通されたらしい。
「では撮りますよ〜。笑って笑って」
「……」
「あ、俺はいないと思ってどんどんいちゃいちゃしてくれ」
「……何やってんだ?カルマ」
カメラマンがカメラを下ろすとそこには見慣れた顔があった。
カルマがにひっと悪戯っ子のように笑みを浮かべた。
翔は当然ながらどうしてここにカルマがいるのだろうと言う疑問を持つ。
しかも、カルマは写真部ではない。だが、実際にカルマは今ここで翔達の写真撮影の担当となっている。
当然ながら翔とカルマは同じクラスであり、クラスの出し物、という訳でもない。
「いや実は、俺達もここに来てて」
「それは分かる。けど撮られる側から撮る側になっているのがさっぱり分からないんだが」
「俺達を担当した奴が撮るのが下手で。もっと蛍は上のアングルから撮った方が可愛く撮れるからってカメラを受け取って撮ってたら……。いつの間にか一緒にする羽目になってた」
「自業自得じゃん。蛍への愛が強すぎるだろ」
「羨ましいか?」
「いえ、まったく」
翔が拒絶反応を示すと、カルマはそこまで遠慮しなくても、と苦笑していた。
「蒼羽くん、蛍さんは今どこに?」
「ん?たぶんそこら辺でうろうろしてる。蛍から翔達がここに来ることは聞いてたからそれまでは付き合ってくれるって」
「よかったな、理解のある彼女で」
「まぁな。でもあんまり待たせすぎるとやばいからな。主に俺の財布が」
「……お熱いことで」
色々と言いたいことはあったものの、これ以上の会話は桜花を放ってしまいそうだったので、切り上げる。
ふと、桜花の方を見ると桜花は複雑そうな顔をしていた。
蛍はどこで何をしているのだろうか、このような所でカルマは油を売っていていいのだろうか。写真撮影なら撮ってもらうことになるのだが、知り合いに翔との姿を撮影されるというのはあまり心が進まないな、しかしそれでも赤の他人よりは表情も柔らかく撮れるかもしれない。
などなど。
色々な思惑が交錯していることは何となく予想がついていたのだが、直接訊ねるのはやめておいた。
代わりにカルマを急かす。
「カルマカメラマン。さぁ撮ってくれ」
「じゃあ一枚目は普通に行こうか」
翔と桜花はカメラを向けられ、ぎこちないピースサインをする。
明るく、眩しいフラッシュが炊かれ、危うく目を閉じそうになったのを何とかして抑える。
「固いぞ、二人とも。もっといちゃいちゃしろ」
「おい、本音!」
「俺はみんなの代表として言っただけだ」
「何の代表?!」
「翔。双葉さんに近付け」
カメラマンから要望が飛んでくる。カメラマンがカルマであったことに驚いて桜花とは距離を置いてしまっていた。
そのいつもとは違う距離感が二人をぎこちなく写してしまっていた。
翔が一歩、桜花の近くへとよる。しかし、それではまだ足りないらしく、カルマがむすっとして手でひょいひょいと合図する。
もう少し寄れ、ということなのだろうか。
「手を回すぐらいまで近くなれって」
「な、な……え」
翔は動揺して日本語が出てこない。
桜花と二人きりならば手を回すぐらい何の羞恥心もなかったのに、カルマに見られていて、尚且つカメラも向けられているからか恥ずかしい気持ちが湧いてくる。
「翔くん」
「……分かったよ」
恐る恐る桜花の腰に手を回す。文字に起こすと変態なように思えるかもしれないが、全くそのような意図はなかった。
「おっおっ!!いいぞ!いいぞ!」
「喜ぶなよ」
パシャパシャと連写されていく。
途中で桜花が動いた。それも翔を抱き締めるように。
「ん?!」
「最高ッ!!」
カルマの興がすっかり乗ってしまいなかなか終わらなかった。
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