第227話「ヤキモチ文化祭」
すっかり桜花を置いてけぼりにして勝手に盛りあがってしまった翔に、桜花は体育館を出る時から翔の腕に自分の腕を絡めていた。
翔は驚きはしたものの、離すような真似はしなかった。桜花を放ったらかしにしていた、という自覚もあったし、表情から怒ってる、もしくはヤキモチを妬いている、ことは何となく察していた。
「次はどこへ行きますか?」
「面白そうな場所があったら覗いてみよう」
「なら、一つ、行きたいところがあるのですが」
翔が特に予定を立てていなかった、と判断したのか、桜花が提案してくる。
翔はもう少し後に約束の時間が来てしまうのでそれまでになら別に何をしても構わない。
桜花が行きたいところがあるのなら、そこは優先していくべきだろう。
「どこ?」
「写真です。翔くんと撮る機会はあまりないですし……」
「桜花を撮る方が上手いからな」
「そう言っていつもはぐらかされてしまいます」
翔は撮られるよりも撮りたいと思っている。被写体があまり映えない翔よりも映える桜花の方が撮っていて気持ちがいいだろう。
それに、翔が髪を上げている状態で、しかも制服の状態で撮ることはこれからないかもしれない。
そう考えると今のタイミングは絶好だと言えるのではないだろうか。
「制服姿で撮ってもらうのもいいかもな」
「ツーショットをするのはあまり無かったですし」
「んで、この状態で撮るの?」
翔は視線を腕に落とす。
そこは桜花とぴったりくっついているところだ。
撮られるということは撮る人がいるということであり、ここは文化祭なのでプロが撮ることはもちろんなく、同じ生徒が撮る。
写真部なので腕をとやかく言うつもりは無いのだが……。はっきり言えばいちゃついているところを見られるのは正直、気が引けた。
こういうところでプリクラ、というところが如何に考えられているのかわかる。
「だめでしょうか」
「その訊き方はずるい」
「……ふふっ」
言外に肯定したことになったので恥ずかしくなりそっぽをむくと、桜花が小さく笑った。
翔は誤魔化すようにして歩き始めた。周りが胸を抑えていたが気にしない。今年の文化祭は心臓の弱い人達が多いのか、と軽く思うだけに留めた。
「どこら辺にあるかわかる?」
「一階の隅です」
「うん、ここからだと一番遠いね」
翔は何となく頭の中で校内地図を開ける。
やはり一番遠い。
「いっぱい見られますね」
「……カップル感満載だしなー」
「翔くんの言葉に心が籠ってません……!棒読みです」
「恥ずかしかったからで嫌だって言うわけじゃないから」
「分かっていますよ」
翔は今のところ、美男に辛うじて数えられる程にはなっているので、美男美女のカップルとなっているように見える。
当然、そうなるとすれ違うだけで話題になるし、注目を浴びるのは避けられない。
だが、桜花が一緒に居てくれる、もっと言えば桜花と物理的に繋がっているおかげで、別にもう構わない、という気になった。
「翔くん、かっこいいと言われてますよ」
「慣れないから聞こえてないふりしてたのに……。どうしてわざわざ教えるかなー?」
「わざとです」
「桜花も可愛いって言われてるぞ」
「ありがとうございます」
「慣れてるから対処が冷静だな」
「それもありますけど、翔くんから言われる方が嬉しいので」
なるほど、それが正解か。
翔は返答の答えを聞いて、そうか、と思った。
「いつもより優しい雰囲気だ、とも言われてるぞ」
「……もうやめてください」
「彼氏にはあんな表情もするのか、だってさ」
「恥ずかしいのでやめてください」
「可愛いよ」
「……反則ですよ」
いつも通りだと大丈夫らしいのだが、翔と会話をしている時の桜花を見られるのは恥ずかしいらしい。
翔からすると、翔と話している時の方が素が出ている感じがしているのだが、もしかすると素を見られるのが嫌なのかもしれない。
「僕から言って欲しいって要望があったから……」
「よ、要望はしてませんよ!ただ嬉しいな、と言っただけで」
「照れてる」
「……むぅ」
翔がからかうと桜花は軽く体当たりしてきた。とはいえ、助走も何も無かったので攻撃力はなく、これもいちゃつきの一環だろう。
「いつも思ってるけど、こういう特別な日にはちゃんと言うようにしてる」
「そういうことはもう少し早く言ってくださいよ。私にも心の準備が……」
「さぁ、写真撮りに行こうか」
「翔くん!私の話も聞いてください!」
翔は自分の心の内を話したことに気恥しさを感じ、自分の頬が熱を持っていたのを理解して、取り繕うように桜花の腕を引っ張った。
写真を取りに行こう。
そして、その後に翔のサプライズ。
その約束の時間まであと少し。
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