第44話「新しい友達」
午前の授業を終え、昼休みが始まった。
翔は少し用事があったため、遅れて教室へと戻ってきた。用事は翔に、という訳ではなく、そこにたまたまいたので任されたという意味合いが強かった。
真っ先に自分の席に座ろうとして、占領されていることに気づいた。
昼休みで、自由に席を移動するため勝手に使われることは多々あると言えばそうなのだが、今まで翔は席を移動したことがないので少し困惑した。
「どうした?」
「席が占領されてる」
「まぁ、それは仕方ない」
立ち尽くしているとカルマが話しかけてきた。カルマは翔の事情もそこそこに翔の席の辺りを見ながら、語り始めた。
「やっと邪魔者が居なくなったから、だろうな」
「邪魔者って誰だよ」
「分かってて言うなよ。須藤の一件からまだ日は浅いんだぜ?しかもちょっとした有名話にもなってる。美少女が危機に晒されたってな」
「それと邪魔者にどういう関係が」
「話しかけづらいだろ?単純に」
カルマは当たり前だろう、と言わんばかりの口調だ。
ここでようやく翔も理解した。
要は、心配で声をかけたかったクラスの女子達だったが、隣の男子が四六時中いるので、なかなか話しかけることが出来ず、かと言って二人が密な関係なら割り込んで、邪魔するもの悪い(主に桜花に)ので、なかなか行動に結びつかなかったのだろう。
翔からすれば杞憂にも程があるが、年頃の女子というものはそういうものなのだろう。
「因みに、ラブリーマイエンジェルあやせたんもあそこにいる」
「急にキャラクターぶっ込んで来るな」
「双葉さんは聖女、綾瀬さんは天使」
「どこ?」
「あの小さいショートカットの女の子」
周りにはわからないように、だが翔にははっきりわかるように指を指したその先には確かにその条件に当てはまりそうな女の子が一人。
黒髪ショートで、屈託なく笑っている姿は純粋に可愛らしいと感じ、小さくて妙におっちょこちょいなのか、ドジを踏んでバツが悪そうにしている姿は男子には庇護欲を掻き立てられる。
「ほぅ。あの子が君の惚れた相手かね」
「そうなんですよ。可愛いでしょう?」
素直になるのは何となく癪だったので、上司っぽく取り繕うとカルマはまるで、下衆な商人のような声を出した。
「人気高そう」
「まぁな。双葉さんとは違って誰にでもフレンドリーで親身になってくれる綾瀬さんだから、美貌も相成って人気は高い」
「まぁ、確かに双葉は愛想ないからな」
「翔がそれを言ってもいいのかよ」
「僕がどれだけ褒めたって日頃読書しかしてない双葉の評価はそうそう変わるものじゃないし」
流石に学校で下の名前を呼ぶことは出来なかった。付き合ってもいないので妥当な判断だろう。
「愛想ないというか。見ていて儚げで女神のように美しいんだが、距離があるって感じだ」
「それは人に対する感情の感想じゃなくて人形に対してみたいだな」
「そうだな。いい例えとして人間サイズのお人形さんみたいだな」
それは果たして、いいのか、悪いのか。
本人では無いのでその例えがどう捉えれるのかは分からなかったが、自分なら悪い意味で捉えるだろうな、と思う。
翔は家でも桜花と一緒にいる。
それ故に、学校では見せない顔を知っている。だからだろうが翔には「お人形さん」などという比喩は浮かんでこない。
誰にも何にも比喩されることなどできない一人の女の子だと思っている。
カルマがご執心の綾瀬蛍と比べても同じように簡単に「綺麗」と口にすることは出来る。が、桜花の綺麗は「静」であり、蛍の綺麗は「動」のものだ。
表情にも出さず熱く胸中で語っていると、カルマが目前で手をひらひら振っていた。
「何だよ」
「急に黙るから」
カルマに言いたい事が10個ほど浮かんだが、ぐっと呑み込んで、話を結論に持っていく。
「少し考え事」
「ふぅん。で、結論は出たか?」
「さぁな」
それだけ言って、翔は女子ばかりいる自分の席へと向かう。
後ろから続きを問う声は上がらなかった。
いち早く気付いた女子の一人が、肘で隣の女子をつついた。
そして、何故かひと睨みされ、場所を空けた。
理論的に言うならば、この椅子と机は翔のものでは無い。しかし、勉強のために宛てがわれた翔用の椅子と机であるとも言える。だから、睨まれるのは筋違いである。
五、六人が桜花の周りに居たらしく、その全員が快く思っていないと感じさせるような表情を翔に見せて、離れていった。
「えぇ……」
流石に心の声が漏れた。
「大丈夫?」
「いや、予想以上に嫌われてて驚……いただけ……?」
どうやら全員がここを離れた訳では無いらしい。
敬語が抜けた桜花だったとしても驚いて変な声が出てしまうだろうが、残っていたというのともう一つ。
彼女が今話題沸騰中の女の子だったからだ。
「そんなことないと思うよ?響谷翔くん」
黒髪ショートで、小柄な庇護欲が掻き立てられる女の子。
綾瀬蛍がそこにいた。
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