暗翳の火床(アンエイのカショウ)
蒸奇都市倶楽部
序章
午前零時。
新しい一日を告げる鐘が遠くから聞こえてくる。
この年最後の
「《時計塔》は今日もまだ順調なのか」
はるか上空から、かすかに響く音を聞きわけながら男がつぶやく。
腰に手を当てて、がらんとした広大な広間の隅でふんぞり返っている。
そこは奇妙な広間だった。
一階分をまるまる吹き抜けとして供しているかのように、巨大な穴が天井から床までくり抜かれている。そうして見てみると、男が立っているのは広間の隅というよりも、わずかな
「天を仰いで何を得る! 偉大なる先人が遺した至宝かね? 我らを律する
芝居がかった口調の割に声音はびちゃびちゃとしており、それを「朗々」と評するのはお世辞がすぎよう。
「その足元から狂いが生じているとも露知らぬ愚かな《時計塔》よ」
男の周囲で何名かの人影が立ち働いていた。
しかし誰も彼の言葉には耳を傾けていない。黙々と身体を動かす人影たちは、何かを担ぎ上げては、広間を地から天へ貫く巨大な穴に向かって放り投げている。
その動作から一拍ほど遅れて、
「お前が帝都の象徴だと? 守護者だと? ましてや支配者? ばかばかしい!」
一刀両断、男が吐き捨てる。
「貴様に
男に呼応するかのように穴の底の方が仄明るく輝き、轟! 轟! と響く。そのたび恍惚とした男の顔が照り返しを受ける。
穴の奥深くでは真っ赤な炎がめらめらと渦巻いていた。
まるで男の内で燃える妄執のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます