第131話:新世代の子供達
御手洗さんに大きな休憩室のようなスペースに連れてこられた。
中には机に突っ伏してる人や天を仰ぐように休んでいる人達がいる。
日本でもよく見かける光景なので親近感が湧いてきたけど、アメリカに来てまでこんな死屍累々な現場なんて見とぅなかった。
「それで、荒野さんからは是非ともここに来るまでにあった事を教えてほしいのですが!」
イスに座って一息ついた瞬間に御手洗さんがキラキラさせた目をこちらに向けてくる。
「ア、それならワタシ飲み物とってきますネ」
御手洗さんの話が長いことを察したのか、エレノアとイーサンが立ち上がって飲み物を用意しに行ってくれた。
ちなみにルーシーの犬走はいつの間にか居なくなってる。
ルーシーはここの卒業生的なやつだからまだしも、犬走の方はスパイとして捕まって処分されるんじゃなかろうか。
まぁあいつの事は放っておいて、御手洗さんにこれまでの経緯を話す。
途中から他の研究者っぽい人達も集まり、なんだか講習会のようになってしまった。
「えー、そんなこんなでここにやってきたわけです」
「失礼、素人質問で恐縮なのですが―――」
「こんな所で働いておいて素人は通じないよ!?」
ようやく話し終わったというのに聞いていた人達がお行儀よく挙手して質問してくる。
自分だって何がどうなってこうなったのか分からないんだよ。
そっちは宗教が盛んなんだし神様に聞いてくれ。
≪ねぇねぇ、続きは?≫
「いやここに来るまでの話なんだから続きは―――」
子供の声が上から聞こえた気がして見上げてみるが照明しかない。
マイク内蔵型照明……ないな。
≪えー! そこで終わるだなんて勿体無いよ≫
再び天井から声が聞こえるが何もおかしなところはない。
異常がないのがおかしい……。
「御手洗さん、あの声って俺の幻聴じゃないですよね?」
「あれはフォーティーの仕業ですね、壁や地面を通して音を出したり拾ったりできるんです。電話のある現代ではほとんど必要ない力ですね」
「ん……フォーティー?」
「あぁ、子供達は名前で呼ばずに番号で呼ばれているんです」
悪の研究者のやるやつじゃん!
ヒドイ、御手洗さん……残虐で非道で悪辣な兵器や要求をしてきたとしても、子供にそんなことする人だなんて思わなかったわ!
「ちなみにスパイとかエージェントみたいでカッコイイからそう呼んでほしいと子供達から言われたので、スタッフはそれに付き合ってるとか」
まぁね、分かるよ。
ダブルオー的なスパイとかカッコイイもんね。
「ちなみに他の子供はどんな力が?」
「フォーティー・ナインは触れた箇所の摩擦力を一定時間減らします。サーティー・セブンは自身を無重力化できるんですが、オン・オフがうまくできないせいで健康被害が出てたりしてます。ただ、そのおかげで無重力環境における子供への影響のデータがドンドン取れるのは複雑ですね」
無重力状態だと骨や筋肉が弱まったり、心臓がするらしいので難儀なものである。
「だからでしょうね、ここで働いているスタッフが子供に優しいのは。子供ではなく親の責任によって押し付けられた力で自由が奪われているんですから」
御手洗さんが儚げな表情をしながら子供を捕まえようとしているスタッフを見ている。
……この人がこんな人間性をまだ持ってたことにちょっと驚きである。
「じゃあ俺のことも同情してもらえるんですかね。俺のせいじゃないのにこんな顔と性格してるせいで恋愛の自由が奪われてますから!」
「かわいそう……ですね……」
御手洗さん?
そっと肩に手を置いて慰めてくれる御手洗さん?
多分その「かわいそう」って僕が求めてるやつじゃないですよね御手洗さん?
あとその哀れみの目をやめてくれ、死にたくなってくる。
そしてそんなことをしている間にも施設の中では嵐が巻き起こっている。
逃げる子供、捕まえる大人、吹き荒ぶ風、飛ばされる人……。
うん……まぁもう何も見なかったことにしよう、そうしよう。
「このクソガキャァアアア!!」
飛ばされてる人の中に見知った顔の奴がいた。
けど子供に向かって暴言を吐く人は知らないので赤の他人のフリをしておこう。
「そこの暇人も捕まえるの手伝えや! 一瞬の隙をついて荷物の中身ぬかれたんやで!?」
「えっ、イーサンの持ってきた銃とか!?」
それはヤバイ!
こんな場所で銃乱射事件とかシャレにならないぞ!?
「いや、取られたんのは生米とかやけど」
「じゃあどうでもいいよ」
文字通り煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
……いや米なんだから炊くのが正しいか。
「けどアレやで? あのガキ共、生米食って"まっずぅ~い!"とか言ってたで」
「そいつぁ許せねぇ!!」
イスが吹き飛ぶ勢い立ち上がったせいで、近くにいたエレノアが驚いて身を引いてしまった。
「ビ、ビックリした……ド、ドウシタの?」
「米が嫌いなのは許そう、食べず嫌いもまぁ許そう……だが! 炊かずに食っておいて不味いというのは許さん!」
「エット、お米を炊かないで食べる料理もあるケド」
「……腹が減ってきた! 許さん!」
「エェ……」
とにもかくにも奴らを捕まえる為、自分の犬走は休憩室から出てスタッフさんと一緒に子供拉致計画を実行する。
「大人の本気ってやつを見せてやらぁ!」
≪わぁ~!≫
声をあげながら逃げる子供達を追い回す大人達……外だと逆にこちらが捕まる絵図だが、今ここに警察はいない!
今は悪い大人が微笑む時代なんだ!
まず犬走と二手に分かれて一人の子供を捕まえようとする。
透明な……恐ろしい密度まで圧縮された空気に阻まれて失敗。
天井を走る子供にはシーツを思いっきり振り、身体に巻きつけたのでそのまま包んで捕獲に成功。
……と思っていたら急に全身の力が抜けたせいで地面に落とかけたので、慌てて抱きかかえたまま地面に下ろすとそのまま逃げられた。
足の方を見ると子供が自分のズボンの裾を掴んでいた。
「フィフティー・ワン! その子は筋力を弛緩させてきます!」
怖いなこの子!?
とはいえ、それならばやりようがある、筋肉が使えないなら脂肪を使えばいい。
上から上半身を使って覆い被されば逃げられまい!
事案みたいな見た目になってしまったが、その間に他の誰かがこの子を捕まえればいいのだ。
そしたら別の子供が背中に張り付いてきたと思ったら身体が宙に浮いてしまった。
無重力の力を持ってるサーティー・セブンか!?
身体の重みがなくなったせいで下敷きになっていた子供が抜け出してしまう。
それどころか、先ほど天井を走って逃げた子供が戻ってきて、宙に浮かぶこちらの身体を引っ張って逃走を再開してしまった。
成る程ね……これが子供に弄ばれる風船の気持ちなんだね、完璧に理解したわ。
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