現代でモンスター駆除業者をやってたら社長が赤字を何とかするために無理をしたせいで社員のほとんどが死んだからずっと一人で仕事をしてたら凄いことになりました

@gulu

第1話:生き残りと皮剥


 TVから聞こえる音で目が覚める。

 寝起きで覚醒しきれてない意識で枕元にあるスマホを手に取ると、すでに時刻は14時だった。


『外来異種…いわゆるモンスター駆除への予算増加が決定したことにより、野党と市民からバッシングが続いております。この流れをどう見ておりますか?』

『無駄に予算を増やすくらいなら海外のように警察や兵士を充足させて対応させるべきだという意見もありますが、そもそも人員が足りてないから民間委託をしているわけですからね。この予算でどれだけ改善されるかと言われても、ちょっと疑問がありますねぇ』

『はい、コメンターの落駒先生ありがとうございます。このように我々の血税が無駄に浪費―――』


 ボーっとした頭でTVの内容を聞いていたが、いつも通りの面白くない内容なのでさっさと消す。

 そうしていると、手に持っていたスマホから着信音が鳴り、画面を見ると区役所からの連絡であった。

 このまま居留守を使うべきかと悩んでいたが、仮にも社会人であるので嫌々ながらもちゃんと通話に出ることにした。


「はい、荒野です。ただいま水虫が虫歯のせいで頭痛の咳が止まらないので電話に出ることはできません、ピーという発信音の後に―――」

「あら大変だねぇ…ってそんなわけないでしょ。ちょっと症状を混ぜすぎだよ」


 なんてことだ、水虫の箇所は本当だというのに信じてもらえないなんて。

 自分の水虫が他の人に感染してパンデミックが発生したらお役所は責任を取れるのだろうか?


「そうは言っても、昨日ブンさんが持ってきたお仕事が深夜までかかったせいでまだ眠いんですよ」


 利島 文、通称ブンさんと呼ばれるこの初老の区役所員の人とはよく仕事の話をしている。


「いやぁ、大変だとは思うんだけどねぇ。またぞろ苦情が増えてきたから駆除のお願いをしたいんだよ。他の民間委託の所じゃこんな安い案件は受けないだろうし」


 そう言ってこちらにお仕事の情報を送ってきてくれた。

 通話状態のまま画面をスワイプして見てみると、なるほど…まぁ苦情も増えるのも当然だと思える内容であった。


「だからって丁種免許の自分に依頼しなくとも…駆除課の人から聴きましたけど、最近は免許持ちの人も増えてるらしいじゃないですか」


 モンスターの駆除免許には甲乙丙丁の4種類があり、自分が持っているのは一番下の丁種である。

 だから自分で出来る仕事は、他の人でもできるものなのである。


「それがね、ほとんど冷やかしなのよ! 免許をとっても何も仕事をしないで失効っていうのばっかりでさぁ。ねぇ頼むよぉ…緊急駆除で料金も割り増しになってるからさぁ…」


 ブンさんは親身になって相談できるし、こちらの言い分もちゃんと聞いてくれるので凄く頼りにしている。

 だからこそ、なんとかしてあげたい気持ちはあるのだ。


「丁種免許の仕事で割り増しとかされても雀の涙じゃないですか。 もっと、こう…お食事券的なオマケはないんですか?」

「なんとかしてあげたいのは山々なんだけどねぇ、公務員だから個人的な贈与も禁止なのよ。今度割りのいい仕事が来たら教えてあげるから…ね? お願い!」


 ゴネてもどうしようもない事もある、というかそんなことばかりである。


「分かりました…やります、やらせてもらいます。どの道、放置したら世間様から何言われるか分かったもんじゃないですし」

「昔は公務員ばかり叩かれてたけど、今は駆除業者も叩かれるようになったからねぇ。それじゃあよろしくね」


 世間の目というものはいつも厳しいもので、世間の風も冷えたままである。

 だからといって仕事を放棄できないのが社会人の辛いところである。

 せめてボーナスでもあればいいのだが、この業界にそんなものは存在しない。


 仕事道具と着替えを用意して家を出る。

 トランクケースを積み、現場まで移動しよう。

 まぁチャリなんだけど。

 バイクや車があれば移動も楽なのだが、都心に近いせいで駐禁が厳しい。

 罰金とられると一気に生活が傾くし、そもそも維持費もバカにならない。

 だからといっていい社会人がチャリで仕事現場にいくのはどうなのだろうか。

 いや、止そう…これ以上考えるとうつ病になってしまう。



 そんなこんなで昼下がりの住宅街に到着。

 こういう時は熟れた若妻との逢引が約束かもしれないが…自分の目の前には1メートル級のぬちょぬちょおばけナメクジである。

 やる気がまったく出てこない。

 塩かけたら勝手に溶けて死なないだろうか…いや、死なないから誰も相手してないんだよなお前は。

 しかもこいつら、梅雨入りすると一気に数が増えるからさらに性質が悪い。


 そんなこちらの思惑を知ってか知らずか、おばけナメクジは石垣を溶かしながら食事している。

 殺すぞ。

 いや殺すためにわざわざここに来たんだが。


 まぁこのまま立ち尽くしても仕方がないのでトランクケースから仕事道具を引っ張り出して準備をする。


「うわ、民間の委託業者よ。いまさらだなんて遅すぎよねぇ」

「ほら、あれよ。わざと発生したモンスターを放置しておいて値段をわざと吊り上げるってあれ」


 少し離れたところのお話が聞こえる。

 これが美人の奥様ならまだいいのだが、熟れたどころか腐って汁が溶け出てそうな果実はノーセンキューである。


「あれを処理するだけでコンビニバイトより給料いいんでしょ?」

「ニュースでも言ってたけど、予算をあげる必要ないわよね。血税の無駄よ」


 そうだね、このお仕事を1時間以内でやり続けられればコンビニよりかは時給はいいですよ。

 だけどクソほどキツイから誰もやらないんですよ。

 そんな感じで言い返してやりたいところだが、ここは大人な対応をしよう。


「そこの奥さん方、そちらも一緒に民間委託駆除をやりませんか? 免許は高校生以上なら簡単にとれますし、とったその日からすぐお仕事もできますよ。年間の死傷者も事故とかに比べれば全然少ないですし、余った時間で簡単に稼ぎましょう!」


 うん、本当に免許自体は簡単にとれるのだが、仕事がきつくて誰もやらないのだ。

 いやまぁ専門の会社に所属して仕事をするって手もあるのだが、自分は気楽に一人でやっている。


「…行きましょうか、家事をしないとね」

「そうね…忙しいもの」


 そう言ってこちらに陰口を叩いていた悪のツイン奥様はその場から離れていった。

 ほんま、仕事してるとあんなんばっかと遭遇する。

 そしてお仕事対象のおばけナメクジは食べ飽きたのかクソをしている。

 ほんま殺すぞお前、いや殺すことは確定してるのだが。


「そんなお前にはこれだ」


 ゴム手袋をはめ直してトランクケースから出すは中くらいのスコップ。

 寝ているおばけナメクジの背後に立ち、狙いを定めてその頭へ一気に突き刺す。

 数瞬、その状態でもがくのだがこちらはそれを気にも留めることなくそのままピザのように真っ直ぐ縦にカットする。

 真っ直ぐにカットされたおばけナメクジは動かなくなったが、さらに細かく切り分けていく。

 切り分けたその体を何重にも重ねた袋の中に放り込んでいく。


 駆除証明のためにこれを区役所に持って行かねばならない。

 水気たっぷりのこのゴミを、長い時間かけて、チャリで。

 放置して乾燥させたいところだが、虫が湧いて余計に大変になるのでそれはできない。

 クソッタレであると声を大にして言いたい。

 まぁ仕事をしていないのにしていると報告するやつがいるかもしれないので、仕方がないのかもしれないのだが。


 そんなこんなでモンスターが食べた石垣の被害を撮影してスマホのアプリでマーカーを刺しておいた。

 これであとは清掃業者がきてここいらの掃除をしてくれるだろう。

 まぁ石垣もほとんど削れてないし水を撒くだけで終わるのだろう。



 そんなこんなでモンスターのゴミを持って市役所の裏手にいく。


「どうも、ユーバーイーツです。お約束のものをお持ちしました」

「イヤだよ、それ食べたら絶対にお腹壊すよ」


だろうね、下手すると新しい病気に罹る。


「中国だとモンスター…外来異種を食べるどころか、専用の料理店もあるらしいですよ」

「逞しいよねぇ。確かコウモリ型の外来異種が確認された時も真っ先に食べたらしいよ」

「それ、普通のコウモリと区別つかなかっただけでは…?」


 あっちはほんと何でも食べるよな。

 美味そうなモンスターもいるにはいるけれど、コウモリはちょっと抵抗があるよ。


「まぁこの毒にも薬にもならないナメクジは置いといて、他の外来異種って色々なところで使われてますよね」

「そのおかげで新薬の開発も捗ってるとかで、私も研修のためにその現場に連れて行かれたことあるよ」


 未知の生物が出たなら、未知の何かも見つかるわけで…ほんとなんでもやるね人類。


「ところで話は変わるけど、荒野くんもうちょっと上の免許とってみない? 銃とか使えるようになるよ」

「それ銃がないと危険が危ないやつですよね!? 絶対に嫌です、自分は丁種免許だけで生きていくんです!」


 外来異種の免許には甲・乙・丙・丁の4種類があり、丁が一番低いものである。

 免許のランクを上げると斡旋される仕事と報酬も上がるのだが、代わりに低いランクの仕事は減額されてしまう。

 なので、調子にのって上の免許をとって生活レベルと一緒にリスクも上げて死ぬ人が後を絶たない。


「まぁ免許の件はいいや。でも、せめて個人は止めて会社に所属したらどうだい」

「自分も最初は会社に所属して仕事してましたよ? ただ、その……」


 調子にのって拡大させたせいで会社の運営が傾いた時に、社長が無茶な仕事を受けたことがある。

 あの日、初めて仕事をサボったけれど…あの時の自分の判断は正しかったと今でも思っている。


「やっぱり、自分の命にしか責任を持たない今が一番ですよ」

「分かるよ。分かるんだけど…移動手段が自転車ってのは厳しくないかい?」


 け…健康にはいいし……!

 そんな感じでブンさんと話してるとスマホから通知音が鳴った。

 画面を見ると先輩からのメールであった。


「おっ、先輩からだ。飲みの誘いかぁ…」

「先輩? さっき言っていた会社の人かい?」

「えぇ、たまたま生き残ってた人が何人かいたんですよ。この人は土方も兼業してるから鍛え方が違うって豪語してましたけど」


 というかよくもまぁ兼業できるものだと感心していた。

 仕事だけでヘトヘトになっていた自分には信じられないほどのタフさであった。


「鍛え方か…そういえば、この仕事をしていると普通に鍛えるよりも強くなるって聞いた事あるね。荒野くんはそういうのないの?」


 その質問に答えるように自分の丸い腹を叩くと子気味のいい音が鳴り、ブンさんは小さくゴメンと謝った。

 気まずい空気をなんとかしようと思ったのか、ブンさんがちょっとした提案をしてきた。


「私もその飲み会に参加していいかい?…いや、別にこの区に引っ越してもらって駆除の仕事してくれる人を増やそうとかは考えてないよ?」

「いやぁ、ブンさんにはいつもお世話になってますけど…来ない方がいいですよ?」


 ブンさんの頼みは出来れば聞いてあげたいし、仕事が楽になるなら自分ももろ手をあげて賛成したいところなのだが、今回はそうはいかないのだ。


「どうして? お金ならちゃんと出すよ?」

「いえ…そういうことではなく……」


 しどろもどろとしているとブンさんは不思議そうな顔をしている。

 まぁ隠すほどでもないので、意を決して伝えることにする。


「仕事道具…持参って書いてあったんで…」



 時刻は20時を過ぎ、居酒屋に集うは手にビールを掲げた三人の男共。


「うーっし、それじゃあ乾杯だ!」

「おう、乾杯!」

「うっす、乾杯!」


 自分の対面にいるガタイのいいオッサン風の人は飲みに誘ってくれた先輩、不破 刑部(ふわ けいぶ)さんである。


「今日は俺の好きなお馬さんが頑張って走ったからな、じゃんじゃん飲んでいいぞ!」


 この通り酒もタバコもやるステレオタイプの体育系の人でよく怒鳴られもしたのだが、何かに困ってれば親身になって相談にのってくれるし、こうやって後輩である自分達に奢ってくれる良い人であった。


「先輩、ちなみにあとから奢りとは言ってないってオチじゃないですよね?」

「そんな情けねぇ真似するわけねぇだろ!」

「おいおい、荒野。そんなこと言ってこいつの機嫌を損ねたら本当に自腹になるぞ?」


 自分の右隣にいる社会人風のこの人は同じく前の駆除委託の会社にいた先輩、社 輩(やしろ やから)さんである。

 あの事件の後、自分はまだ同じ仕事をしているがこの人は引退して普通の会社員に転向したらしい。


「それにしても珍しいですね。この三人が集まったのっていつぶりですか?」

「あぁん? そりゃ前の会社が潰れる前の新年会だから…四年くらい前だな。俺も歳を取ったもんだよ」

「先輩…前にニュースで丙種を素手で殺したってニュースに出てませんでしたか? あれで衰えてるんですか?」


 確か散歩してる時にモンスターと出会って、そのまま素手で処理したせいでこれだから駆除委託業者は常識知らずだとか報道されてたはずだ。

 丙種を駆除しようとして大怪我をした人もいるというのに、何故この人は素手でどうにかしてしまったのか。


「素手で人間殺せりゃ丙種くらいならもう普通に殺せるぞ」

「首を絞めるとかなら可能かもしれないですけど、グーパンで撲殺するのは普通無理っす…」

「なんだ、鍛え方が足りてねぇな。おい輩、お前も何か言ってやれ」


 もしかして社さんもモンスター撲殺マシーンなのだろうか。

 もしそうなら、前の会社の先輩方は全員ヤバイ人たちだった可能性も出てくる。


「そんなことできるのはお前くらいだよ、不破。俺だってもう足を洗ってただの会社員だ、そういうのは無理だよ」

「チッ、ヤワになったもんだ。昔のお前はもっとギラついてたってのによぉ」

「普通の幸せってやつに気付いただけだよ。お前もいつまでも暴れてないで、もうちょっと落ち着いたらどうだ?」


 普通の幸せか。

 俺、この仕事してなかったら何してたんだろ…今よりも苦労していたのか、それとも働けずに死んでいたのか、あんまりいい方向に想像ができない。


「ふん、俺は産まれてから死ぬまでこの体一つで働いてくって決めてんだ。お前もそうだから今でも同じ仕事を続けてるんだろ、荒野」

「そんな大層な理由じゃないっすよ。ただ毎日漠然と仕事をこなしてるだけですって」


 世間様に嫌われてようとも、必要とされている仕事だ。

 外来異種…モンスターがいなくならない限り、仕事に困ることもないから働いているだけである。


「ま…お前はそれでいいわな、だからこそ生き残れたんだ。これ以上、仕事仲間が死んでいくのは御免だ」

「はぁ…」


 なんだろう、先輩の仕事仲間が死んだのだろうか。

 もしかして、その人の死を悼むために飲みに誘ってくれたのだろうか?


「そういえば輩、お前アレ知らねぇよな。おい荒野、ちょっとアレ見せてやれ」

「アレ…もしかして探知アプリのことっすか?」

「探知…何を探すんだ?」

「なんでも、カメラで撮影したモンスターを何なのか調べるってアプリなんだとよ。ほら、試しに使わせてやれ」


 そう言われて自分のスマホを操作して探知アプリを起動させる。


「ハッハッハッ! これでもしお前を撮影して情報が出てきたら、お前はモンスターとして登録されたってことになるな」


 そして俺はスマホを社さんに渡…そうとして、そのままシャッターを切った。


「お、おい! 撮影方向が違うだろ!」

『外来異種 乙種 皮剥 ヲ 検知 シマシタ。付近 ノ 業者 ニ 連絡 イタシマス』


 アプリからの案内音声が無情に再生される。

 居酒屋の喧騒に掻き消されなくて本当によかった。


「フゥー…どうやら、マヌケは見つかったみてぇだな」

「マジっすか先輩…俺、全然気付かなかったんですけど」

「数日前に川で身元不明の遺体が発見されてな。そいつは全身の皮を剥がされたせいで、今でも誰なのか分かっていなかった…俺以外はな」


 マジか。

 というか不破さんはよく気付けたなこれ。

 自分だったらもしかしてと思いながらも、気のせいにしてそのままにしていたと思う。


「ま、待て! だからってどうして俺だってことになる!? アプリの誤作動だって!」

「身体つきを見りゃあなぁ…そいつが仕事仲間だったら、一発で分かるんだよクソ虫が!!」


 不破さんが社さん…のフリをしている皮剥の頭を掴み、そのまま地面のコンクリートに叩きつける。

 何かが砕けるような鈍い音と、大きな騒音のせいで周囲の人の視線がこちらに集まる。


「お、おい荒野! 助けてくれ! こいつおかしくなっちまった!!」

「あっ、大丈夫です。自分達、駆除委託業者です。お騒がせしてすみません、すぐに終わります」


 皮剥の言うことを無視して、周囲でざわついている人たちへの説明に回る。

 相手は上から二番目の乙種、ここで善意の人が現れて邪魔されることが一番怖いのである。


「だ…誰か警察を! 助けてくれ! 人殺しだ!」


 周囲に助けを求めているが、誰もが関わり合いになりたくないかのような目でこちらを見ている。

 不破さんはその後も何度も地面に皮剥の顔面を地面に叩きつけ、最後に何かが潰れるような音をさせてその手を離した。


「う、うわあああああ!」

「やべぇ、やべぇぞオイ!」


 人の頭の形をした何かを叩き潰した不破さんを見ていた観衆は、最後のそのシーンを見てパニックになって店から走って出て行った。


「さーて、これで皮を剥ぎやがったクソは駆除できた。あとはこのクソ虫の片付けか……荒野、あとは頼んだ」

「えぇ…」


 店でまるで人殺しかのように悲鳴をあげられたというのに、この人なにも堪えてない。


「まぁ仕事道具持参ってあったんで袋は持ってきてますけど…いま夜で区役所閉まってますから、これをどこに置いておくかって問題が…」

「お前の家に持ち帰ればいいだろ。そいつの分の金をやるから、あとはなんかいい感じで頼む」


 あまりにも指示がざっくりしすぎである。

 というか、このままこの袋を持って帰ろうとして職質を受けたら捕まるんじゃなかろうか。


「というか、お金いいんですか? 乙種ですから結構な金額になると思うんですけど…」

「害虫駆除が目的だったからな、あースッキリしたわ。んじゃ、俺は他で飲みなおす。お前も何かあったら連絡しろよ、じゃあな」


 そう言って不破さんは万札を机に置いて店を出て行ってしまった。

 久々に会ったが、昔と変わらずサッパリした性格のようで少し安心した。


「あぁ、血が…お店に…血が…ッ!」


 不破さんを見送っていると、店の奥から出てきた女将さんが真っ赤に染まった地面の惨状を見て震えていた。

 駆除の仕事とはいえ、お店を汚してしまったことは大変申し訳なく思う。


「あの、これ自分の丁種免許です。ここにマーカーをつけておいたんで、明日になれば清掃業者の人が来ると思うんで…」


 そこまで言って、女将さんは信じられないものを見るような顔をしてこちらを見てきた。


「明日まで…このまま…?」


 あぁ、うん……飲食店だものね、いち早くなんとかしたいですよね…。


「え…えっと…その、自分も今からお掃除のお手伝いするんで…」


 とても居た堪れない気持ちになったので、せめて血だけでも綺麗に掃除する手伝いをした。

 ちょっと死体袋が重いので、明日まで預かっててもらえませんかとは言えなかった。

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