習い事




そういえば、私は親から

勉強しなさいと言われたことが

一度もない。



おかげで、勉強しなかった。

そしたら

大の苦手な数学で、

まさかの0点を取ってしまった。

中学生の時だ。



そのテストを見せたら、

母に「あらら...」と言われたのだ。

特に怒られなかった。

かといって

私の出来の悪さに失望した

という様子でもなかった。



「勉強しなさい」とは、

母はそれでも言わなかった。

多分、母も、祖母から

勉強しなさいと言われた事はないと思う。



中学生から高校へ上がる時、

私は初めて受験

というものを経験した。



行きたい高校の偏差値に

届いていなかった私は、

危機感のない母に向かって

塾に行きたいと

自ら言ったのだった。

中2の時だった。



私は、4歳の頃にピアノを習い始めた。



小5になる頃には、辞めたくなった。

辞めたいと母に言ったら、

「あなたがやりたいって言ったのよ」

と言われた。



正直、まったく覚えがない。


でも、今考えてみると、

音楽は好きだし、

今でも

曲を聞いて元気を貰ったり、

感傷にひたったり、

気分を上げたりするタイプで


幼いながらにして

ピアノに惹かれたのであれば、

今なら納得はいく。


それでも、仲が良かった友達に

バイエルを抜かされたことや

練習嫌いなことや

人前に立つことに緊張して

それが、どうしてもダメで、

発表会が嫌なことが

私には耐えられなかった。



合気道も習ったことがある。

その時の教えで、

今も強烈に覚えているのは


合気道とは、相手の力を利用することだ。

手を引っ張られたとして、

その腕を引いたら

力が弱い方が負ける。


腕を掴まれて、引っ張られたら、

引っ張られた方に

むしろ腕を突き出すのだと。


そうしたら、相手はよろけるから、

急所でもなんでも狙って逃げろ、と。


女の子なら知ってて損はない。



空手についてはよく知らないが、

合気道というのは、

例え力が弱くても

背が低くても


自分より大きな相手へ勝つための

方法を教えてくれることは

素晴らしい知識だと思う。



自分がやりたいと言ったことも、

魅力を感じたことも

すぐに嫌になったり

気持ちが冷めたり

投げ出したくなったり

辞めたくなったりする。



世の中には、

ひとつのことを

突き詰める者だって

いるのに。



でも、誰かに負けた恥ずかしさ

悔しさ、気持ちの冷め方

めんどくささ、

続けられない心。

嫌な気持ち。

それに負けてしまう嫌悪感。



自分の弱さは、

自分が一番よく知っている。


それでも

挑戦してきたのだ。

自分なりの精一杯を。


でも、どうしたって

なにをしても

上には上がいる。


そんなでかい壁に

跪いたことが

ある人間なら

きっとわかるのだ。


人に強制など出来やしないと。


だから、

今思い返すと

親が何かを「しなさい」と

強制しなかった理由が、


なんとなく、

わかった気がした。

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