救済
父は家事には全然、無能である。
幼いわたしにパスタを作らせた。
「ゆですぎなんじゃない?」と、言った。
(なら、お前がつくれ)と
心では言い返した。
(人に作らせておいて、
うそでも美味しいと
言えないのか?)とも思った。
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「美味しいよ」と一言あれば、
むしろ、ああゆですぎたかもな、とか
味は大丈夫かなとか、次はもっと
上手く作れるように練習でもしておこうか
なんて、思っていただろうに。
上司と部下でもそうだ。
この日のプレゼンの為に
あなたは頑張ってきた
のだから、きっと大丈夫だよと、
「もし何かあれば、私が責任を取るから」
などと、言われた日なんかには、
( ああ、この人に迷惑はかけられまい )と、
絶対に成功させなければと心行きが
明るく決まるってものだ。
そうやって、上手に手のひらで
転がす大人になら正直転がされてもいい。
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話を戻そう。
相手は大人、父親。
わたしは子供で女である。
言いたいことなんて、言ったら、
ぶたれるだけ。
自分の思っていることを主張出来ない、
もどっかしさ、いまいましさ。
今ならヤケ酒、もしくは縁切り。
父は、仕事と女をつくること以外は
何もしない。
ように、わたしには見えていた。
仕事をするだけ、まだマシか。
男は仕事しか出来ないんだと、
割り切るしかなかった。
女は仕事をして、家の中でも
また家事仕事。
子供なんかできたら育児仕事。
それでいて、太ったら、化粧を辞めたら
清潔感がなくなったら、歳を取ったら。
あいにく世の中の大半の
おっさんは上記を見事に満たしている。
あっぱれ。
でも、もう、みじめったらしく
何かにすがらなきゃ
生きる道がなかった
時代とは違うのだ。
弱者だった子供とも違う。
自立、自立こそ己を救う。
その為になら毎日の面倒な化粧をして、
毎月の腹の痛みに耐えて
家事でも仕事でもなんでも
澄ました顔してしてやろう。
悲しみは見せかけ、
心と顔は別物。
シェイクスピアに習って。
他でもない自分のために。
自分のための化粧は戦装束。
笑顔もお世辞も自分を守るためだ。
自立こそ、救済なのだと。
そして、それが可能な時代に
なってきたのだ。
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