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武器庫に現れたアーノルドの姿を認めると、レベッカは顔を強張らせた。
「隊長……後部ハッチにいらっしゃったんじゃなかったんですか?」
「ハミルトン、落ち着いて聞け。鮫が人質を取って交渉を有利に運ぼうとしている状況は、ジェフリー・ハミルトンが死んだ時と同じだ。引き渡しの際、鮫が約束を反故にして人質を殺そうとした。それで、お前の父親が庇って死んだと聞いている」
「鮫は確かに卑怯な手を使うけれど、無駄な殺しはしません。父さんが殺されたのは、こちらの不手際だってあるんじゃないですか? それに今も艦長は母さんと弟も見捨てようとしてる!」
「今は時間稼ぎだ。もう少しで鮫の居場所が突き止められる。鮫はそうやって嘘をついて、お前を利用しているだけだ。普通は人質を使って従わせたりしない」
レベッカの手は震えていた。もともと白い顔が、さらに白く見える。
「私だって、こんなふうに人を裏切って生きていくなんて嫌です。私のせいで誰かが危険な目に遭うのも、死ぬのも嫌です。でも、鮫の言い分が全部間違ってるとも思えないんです。私たちだって、敵の話も聞かずにたくさん殺してるじゃないですか。帝国は何のために白桜刀を使うんですか? こんな争いを続ける意味はあるんですか? 鮫は争いを終わらせるために手を汚してるって言うんです」
アーノルドは答えなかった。何も知らないのか、それとも答えられないのかは、作り物の顔からは読み取れなかった。彼が一歩踏み出すと、レベッカは彼の通信機を撃って破壊した。
「誰が正しいの? 神様は、どうして私たちが苦しんでいる時に助けてくださらないの? 生きている資格がないってこと?」
レベッカの瞳の端から涙が伝うのが見えた。アーノルドは、ゆっくりと瞬きすると、珍しく慎重に言葉を選びつつ話した。
「俺は正義に基づいて行動しているわけではない。お前を裁く権限もない。だから事実を述べるしかないが、少なくとも俺を含む船員誰一人、お前が欠けることは望まない。まだ死傷者が出ていない今なら、鮫に関する情報を提供すれば、処分を受けずに済むはずだ」
レベッカが唇を噛んで俯いた瞬間、立っていられないほど大きく床が傾き、三人は揃ってバランスを崩して床に倒れた。ランスは咄嗟に開いたドアの縁に手を掛けて難を逃れたが、二人は床をずるずると滑って壁にぶつかった。
身軽なレベッカのほうが先に体勢を立て直し、アーノルドの膝を拳銃で撃ち抜いた。
「隊長、ごめんなさい!」
アーノルドは膝を床につきながらも応戦してみせた。放たれた弾丸は正確にレベッカの拳銃を吹き飛ばす。衝撃で尻餅をついたレベッカに、彼は容赦なく銃口を向けた。
「俺相手に勝算はないぞ、ハミルトン」
アーノルドのガラスの瞳の奥に赤い光が灯るのが見えた。あれは相手を排除対象と認識した証拠だ。
「二人とも! やめろよ!」
ランスは通信機で連絡を取ろうとポケットの中をまさぐった。だが、さきほどの転倒で衝撃を受けたせいか、電源が入らない。
今度はアーノルドがレベッカの両脛を撃ち抜いた。糸が切れた人形のようにレベッカは膝をつく。
「ランス、お願い。私の家族とみんなを助けて」
床に這いつくばって歯をくいしばるレベッカを見て、ランスにはどうしても彼女を責めることができなかった。断罪することは簡単だ。だが、自分にその資格はあるだろうか?
正義ってなんだ?
大事な人を守ることは正しい。多くの人を守ることも正しい。守ることを理由にすれば、人は誰かの命さえ奪える。
一体誰を信じればいいのだろう。艦長も鮫も、もしかすると、みんな嘘つきで自分を利用しようとしているだけなのかもしれない。
ただ一つ言えることは、泣いている少女をこれ以上苦しめたくないということだった。彼女には、誰一人として味方がいない。
何が正しいか分からないのなら、信じるものを決めて、それで裏切られたなら、その時はその時でいいんじゃないか。無責任かもしれないけれど、失うものなんて自分にはもう無いのだから。
「わかった。俺はレベッカの味方だ」
ランスは自分を保護しようとしていたアーノルドを思い切り突き飛ばすと、床に転がっている白桜刀を拾い上げた。
「スプリングフィールド――」
浴びせられた銃弾に掠められた腕が、火がついたように熱くなった。構わず白桜刀を鞘から抜き、柄を掴む手に力を込める。レベッカがこれを持ってきたのは十中八九、空間移動を使うためだ。アーノルドが現れる前に言い掛けていたことを考えると、おそらく、これで鮫のところに行けるはず。
「シロタエ、頼む」
窓から差し込むオレンジ色の光を受けた刀身が煌めいた。逆手に握った刀を、ランスは思い切り床に突き立てた。
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