6(2)
ランスとアーノルドが次の巡礼先として派遣されたのは、古城だった。
代々城主を務めている一族の
ここで敵が現れたら
アーノルドは敵影を認めると城主に、闇商に勘付かれたので安全な地下室で身を隠すようにと指示した。そして背負ってきた大きな楽器ケースから、次々と銃火器を取り出した。
「なあ、戦争でもするみたいだぜ」
「その通りだ。お前は弾が当たらないところで隠れていろ」
正確な敵の数は分からないが、飛来する弾丸の数から言って、いつもより多い気がした。普段はだいたい五、六人なのだが、今日は十人は軽く超えているはずだ。
ランスは、本丸から離れた物見台らしき建物の、窓のない部屋で伏せたまま、銃撃音が止むのを待っていた。
三十分ほどそうしていただろうか。アーノルドは、何事もなかったかのように勝利を収めて帰ってきた。
「予定より弾薬と時間を消費した。まだ追っ手がいるかもしれん。今のうちに片付けろ」
ランスは先に確認していた通り、石像がある中庭へ通じる階段を下った。
不意に背筋がすっと冷たくなる。この二ヶ月少しで、勘が働くようになったのかもしれない。螺旋階段の
「ぎゃっ!」
「スプリングフィールド、頭を極力下げて先に降りろ」
アーノルドは、すぐさま遠距離用ライフルで反撃した。そんなに簡単に当たるはずがないし、かえってこちらの位置を教えてしまうのではとランスは心配したが、彼は二発ほど撃つと、すぐに階段を降りてきた。
「無駄撃ちは出来ん。あちらの残り数が分からない」
「レベッカとブレンさんが周囲を見てくれてるんじゃ?」
「そうだが、ハミルトンは無駄撃ちが多い。極力ブレンにやらせたいが、あれはあれで機種にこだわって高価な弾薬を使いたがる。今月の予算はすでに赤字だから、節約せねばならん」
アーノルドはランスを急き立てた。像を壊して、残党との接触は極力避けないと時間もないという。
「何でいつもいつも時間がないんだよ! 前回は珍しくあったけど!」
「文句なら艦長に言え」
彼は素っ気なく言うと、再度ライフルの引き金を引いた。
ランスは中庭の中心に
「シロタエ、頼むぜ」
『いい景色ね。これがなくなったら味気ないわ』
「代わりに何か立ててあげるんじゃねーか?」
『そうだといいわね。そんなお金があればだけど』
「それな……」
ランスは助走をつけて飛び上がり、騎士見習いと思われる像の頭上から、勢いよく白桜刀を振り下ろした。
手応えという手応えは、毎度のことながら、無い。年若そうな騎士の像は、刀身が触れたところから白い花弁を撒き散らしつつ霧散していく。緑の芝生に白はよく映えるが、小さな花びらは地面に触れると、ふわりと溶けるように消えていく。
『お疲れさま』
「こちらこそ、ありがとな」
ランスは刀を鞘に収め、アーノルドの脇に駆け寄った。
「スプリングフィールド、この城には街に抜ける地下道がある。それを使う」
「わかった!」
アーノルドは、城の裏口に来ると「ここだ」と指さした。ランスは周囲を見渡した。
「どこ?」
「これだ」
彼は井戸を指していた。
「は!? 死ぬだろ!」
「枯れ井戸に見せかけた通用口だ」
アーノルドは、どこからかロープを出して一瞬でランスを縛り上げ、古びた滑車にロープをかけた。そして「さっさと行け」と言うと、井戸の
「ぎゃああああぁぁぁ! カエルがいる! ムカデもクモも! 枯れ井戸じゃねえよ! 魔の
「騒ぐな」
アーノルドは、ランスが井戸の底に着地したことを確認すると、自分もロープを器用に使って飛び降りた。武器類も全て持った上でやってのけているのだから、大したものだ。
井戸の底には確かに、錆びた金属製の隠し扉があった。
「ぐずぐずするな。俺が先に行く」
アーノルドは懐中ライトを
「俺、さっき蹴落とされたときは絶望しかけたけど、今回はアーノルドが一緒で良かったと思う」
「何だ?」
「何もないっす……」
(著者注:矢狭間とは、城壁なんかによくある、縦に細長い窓みたいな穴のことだそうです。
そんな狭い穴を撃ち抜くのは、まあ人間には無理だと思います。それをやってのけられる敵は……!?)
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