千載一遇きたりて好機
猫柳蝉丸
本編
拳、脚、応酬が続き、俺の肉体に数々の傷を与えていくが、そんな事でへこたれる俺じゃないさと俺の方も拳を繰り出し奴の顔面を抉り、こちらもまた拳を、くっ二連発のローキックとは予想していなかった何て不覚なんだ俺は今こそ奴を叩きのめしてやるチャンスだってんだ気張れよ俺と考えざまに奴のボディーにタックルを、痛っ、顎をしこたま殴られて気が遠くなりそうで、意識を取り戻そうと口の中を力強く噛み締めて流血しちまったが構うものかよ、俺は今日こそこいつを逃すわけにはいかないんだ千載一遇のチャンスなんだ、やったぜ、俺のエルボーが奴の頭を揺らしてやったざまあみやがれ、大体奴の面を初めて見た時から気に食わなかったんだ腹が立ったんだ整った顔で冷めた目をしやがって馬鹿にしてやがんのか俺を見下してんのか、確かに俺は落ちこぼれの不良だがてめえにそんな目をされるいわれはないんだよ、ぐっ、あのエルボーからもう立ち上がりやがったのかよ優男のくせにタフじゃねえかやるじゃねえか、うむ、頭突きで吹っ飛ばされる感覚も心地よくなってきやがったじゃねえか面白くさせてくれるちょっと待てよ拳の連発なんて聞いてねえよ次は俺の番じゃねえかって、よかったどうにかひるんでくれたか俺のパンチも捨てたもんじゃねえな次はこれだこうして髪を掴まれるのって想像以上に辛いだろうが、俺の方はもっと辛かったんだよ卒業式にこうして待ち伏せして襲い掛かっちまうくらい辛かったんだよ分かれよ、気になった男に見下されるなんて辛いんだよきついんだよ身体の痛みなんかよりずっとずっとつれえんだよそれを分からせたかった分かったもらいたかったんだよ、もう一発くらえよ俺の平手で分からせてや、がっ、いつの間に砂を掴んでやがったんだよ砂で目潰しなんて男のやる事かよ恥の概念が無いのかよ、いや、それでいい、こいつもそれだけ必死になったって意味だざまあみやがれざまあみやがれ、これが俺だ、俺なんだ、しっかりその目に焼き付けやがれてめえの見下した男を、歯牙にもかけない素振りを見せやがって、俺はてめえが気になってたのに、その寂しそうな瞳が目に焼き付いて離れなかったのに、俺に興味がないなんて目をしやがって、そうはさせるかそうはさせるか、今日一日で俺を刻み込んでやる、その身体に俺を刻み込んでやる、不良人生の集大成を見せつけてやるぜって言いたいところだが正直立っているのも辛くなってきやがったし、もしかしたらあと少し小突かれるだけで倒れちまうかもしれねえしどうするどうするこれで終わりなんて嫌だ俺の存在をこの優男に刻み付けてやるんだよせめて俺が一番してやりたかった事をこいつにやってやるんだ、そうだよ、それをやっちまえばよかったんだよな、最初からそうすればよかったんだ迷う事なんてないじゃねえか、さあ、そうだ、俺は奴の首根っこを掴んで、顔面を近付けて、奴の唇と俺の唇を強く強く重ねて舌を絡めてやって離さない離してやらねえからな、ずっと。
千載一遇きたりて好機 猫柳蝉丸 @necosemimaru
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