私が読みたい健全なおねショタまとめ

花音

図書館(1話)


 最近、僕は気になっていることがある。

 

 「今日もいる……」

 図鑑コーナーの隣のテーブル、窓際の端っこの席にいつも座って難しそうな本を広げてノートを書いているお姉さん。

 それまでは僕一人だけの特等席のテーブルだったのに、この春からお姉さんが窓際の席に座るようになってしまった。

 初めは面白くなかったけれど、観察しているうちに気づいたことがある。

 

 その1、ノートを5ページぐらい書いたら難しそうな本をしまって、何か小説を読み始めるということ。

 その2、ノートを書いている時によく百面相をしてたまに唸っているということ。

 その3、小説を読んでいる時はとても夢中で、周りで何かあっても気づかないということ。

 

 そして、

 「今日も調べ物?偉いね。」

 ノートを書いている時に僕が席に座ると、挨拶をしてくれるようになったということ。


 見かけるようになった頃は、お互い気づいてはいるけど話すこともなくて、僕は特等席を独り占めできなくなったことにむっとしていたから、お姉さんの近くに座って「僕の席」アピールをしていた。

 10人は座れそうなテーブルだから、斜め前や目の前に僕が座ると、ちょっとびっくりしていた事もあったけど、何にも言われることなくひと月は過ごしていた。

 そんなお姉さんが別の意味で気になるようになったのは桜が散ってしばらくしてからのこと。


 その日は友達と喧嘩した。ノートに勝手に落書きをされたら誰だって怒る。だけど先生は「先に手を出した方が悪い」って。分かってるよ、でも友達が先にやったんだ。僕だけが悪いわけじゃない。そんなことが頭の中でぐるぐるして、だから一人でテーブルに顔を埋めていた。

 お姉さんはその日は来ていなくて、特等席を独り占めできて嬉しいはずなのに、喧嘩したことが離れなくて、周りに誰もいないからちょっとだけ涙がでてきて、埋めた顔を少しだけ上げたらテーブルにちっちゃな水たまりができてた。


 「よかったら使って?」


 俯いてたから、突然かけられた声にびっくりしたら、いつも同じテーブルにいるお姉さんが横に座ってた。にっこり笑いながら、ピンクのタオルハンカチが僕の目の前に差し出された。


 「あと、これも。」


 そう言って鞄からお姉さんが出したのは絆創膏だった。友達と喧嘩した時にお互い手が出てしまって、ほっぺにすり傷ができてたのを思い出した。


 「あ、りがとう、ございます……」


 戸惑いがちに受け取ったら、お姉さんは満足そうに笑って、席を立ったと思うといつもの席に座った。

 それから、僕とお姉さんは少しだけお喋りをするようになったのである。

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