王太子から逃げようとしましたが、しつこく追いかけてくるんです。途中で拾った幼女のお世話も大変です。

第1話

 それはまさに天啓でした。

 世の中を全くよくできないくせに、神の教えだと言って寄付を強要する教会に腹が立ち、屋敷の中にある祭壇の前に立ち、思いっきり神様に文句を言っていたら、天啓にうたれたのです。


『そこまで口汚く文句を言うのなら、神力をくれてやるから自分で何とかしてみろ、この女郎。

 おまけにちょっとだけ未来も見せてやるから、逃げられるなら逃げてみろ』


 完全に神様の逆切れです!

 こんな天啓は、教会の教えだけでなく、古い時代の神話でも聞いたことがないですが、恐らくそれでも、古い時代の神話の方が教会の教えより正しいのでしょう。

 神様が教会の教え通りの性格から、こんなことは絶対しませんから。

 やはり神様は一柱ではないのです。

 性格も、とても人間臭いようです。


 ですがその方が助かります。

 あまりに行儀のいい神様だったら、文句を言ったことがを恥ずかしく感じてしまっていたでしょう。

 あの神様なら文句を言った事に心を痛める必要もありません。

 それに、神力と知識を与えてもらえたのも大助かりです。


 これで好きでもない王太子と結婚しなくてもよくなりました。

 どうせ少し先には向こうから婚約破棄してくるのです。

 今こちらから婚約破棄しても胸が痛むこともありません。

 むしろ清々します。


 ですがいきなりできる事でもありませんし、穏便にした方がいいのも確かです。

 婚約破棄通知ではなく、婚約辞退願いにしましょう。

 国王陛下や王妃殿下が承認しやすいように、王太子が密かに付き合っている、ゴンサレス侯爵家の令嬢ルスィアの事を暴露してあげましょう。

 ちょっとした意趣返しです。

 天啓で経験した未来は悲惨でしたから。


 それに家出の準備もしなければいけません。

 何の準備もしないで家出するほど馬鹿じゃないです。

 神力でどれくらいの事ができるのか?

 見せてもらえた未来をどう活用するのか?

 家から持ち出す武具・魔法具・現金を準備すること。

 特に武具と魔法具は使いこなせないと意味がありません。

 家出して直ぐに野垂れ死にするようでは、社交界の笑い者になってしまいます。


「お嬢様、最近はずいぶんと本気で鍛錬されますね。

 王太子殿下の婚約者に決まる前、冒険者を志していたころのようですよ」


 バレたのでしょうか?

 今でこそ我が家の武芸指南役をしていますが、ダニエルは元々は勇者とまで称えられた歴戦の冒険者戦士です。

 私の決意を悟られているのかもしれません。

 ただの偶然という事もありますし、鎌をかけている可能性もあります。

 平常心を保って、悟られないように、無難な返事をしなければいけません。


「王太子殿下に嫁ぐ日が近づいていますからね。

 王太子殿下を尻に引けるように、噂のように浮気が激しい時には、容赦なく折檻できるように、自分を鍛え直しているのよ」

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