第2話

 準備は整いました。

 神様が見せてくれた未来に合わせて、三カ月の準備期間を設けました。

 身体は十分昔の感覚を取り戻しました。

 いえ、神力と知識によって、圧倒的に強くなっています!

 恐らく今なら全盛期のダニエルにだって勝てるでしょう。


 国王陛下と王妃殿下へ書いた、王太子とルスィア嬢の告発手紙は、今朝父上に手渡してあります。

 ルスィア嬢が毒性のある媚薬を使って王太子を誘惑したことも、その毒を誰から買ってどこに隠してあるのかも、神様のくれた知識をもとに書いてあります。

 これで王太子に対する婚約辞退願いは受理されるでしょう。

 国王陛下と王妃殿下も、王太子が女にいいように騙されたという、汚点はつけたくないでしょうからね。


 槍も剣も弓も、我が家の宝物殿から一番いいモノをくすねてやりました。

 板金鎧も鎖帷子も皮鎧も同じです。

 馬も二頭ほど拝借するつもりでした。

 拝借する馬はもう決めています。

 角の生えた人喰い牝馬ブケパロスと、雄大な馬体を誇る葦毛の牡馬バビエカです。


 ブケパロスとバビエカに決めたのは、荷物が多く重いからです。

 重い荷物を運ぶには雄大な体格で力が強くないといけないのです。

 しかし私の思い通りにはいきませんでした。

 厩にはあいつがいたのです。

 そう、人語を解し話す不思議な牡馬インキタトゥスがいたのです。


「おい、おい、おい。

 どこに行くつもりだい、マリーア嬢よ。

 まさが俺様を置いていくつもりじゃないだろうな?

 そんなつれない態度をとるのなら、大声出しちゃうよ。

 マリーア嬢が逃げ出そうとしていると叫んじゃうよ。

 それでもいいのかい?」


「あのねインキタトゥス。

 私はこれから家出をするの。

 父上や母上は必ず追っ手を出すわ。

 フェルナンデス公爵家の家臣でも優秀な者たちが、追っ手に選ばれるのよ。

 彼らから逃げるには、足手まといは邪魔なのよ。

 インキタトゥスのような貧弱な体格で、少し走ったら疲れて休むような子は、連れて行けないのよ!」


「おい、おい、おい。

 情けない奴だな。

 もう少しよく考えてみろよ。

 マリーア嬢は確かに強いが、頭の方は少々劣ってるんぜ。

 よく考えずに思ったことを直ぐ口に出してしまうし、怒っても哀しんでも、思ったことを隠すことができずに表情に出してしまう。

 そんなマリーア嬢が一人で余の中に出てみな、悪い奴にコロッと騙されて、悪事の片棒を担がされるぜ。

 そんな事になったら、マリーア嬢がなまじ強いだけに、多くの人が迷惑するかもしれないんだぜ。

 悪い事は言わないから、俺を連れていきなよ」


「私よりもあんたの方が賢いって言うの?!」


「自分の方が俺より賢いと断言できるのかい?」

 

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