学年一の美少女に裏切られたので新しい人生を歩みます

カクダケ@

第1話 学年一の美少女に裏切られた

「好きです、俺と付き合って下さい」


 高2の春、屋上にて俺──森山康太もりやまこうたは多分一世一代の告白をすることに成功した。相手は同じクラスの学校でトップアイドル並みの美少女と名高い桐崎七瀬きりさきななせ


 入学して初めて彼女を見た時、美少女って本当にいるんだなと思った。美少女はほとんど画面の向こうでしか知らなかったため、目の前で見た時は感動が凄く、その時この人と付き合いたいと強く感じた。


 好きになったきっかけは、高1の夏に席替えで彼女と隣の席になったことだ。持ち前の愛想の良さ、殺人的な笑顔、それらが全て俺の心が奪われた理由だ。何より彼女は俺に気があるのだ。


 なぜそんな事が言い切れるかと言うと、彼女は男子から声をかけられるが自分から声をかける男子はなぜか俺だけらしい。もちろんそれだけでは理由にならない。彼女の俺に対する話題にはいつも面白いものがある。そして、話を途切れさせないように必死なのも伝わってくる。だから彼女は周りから「康太はやめとけ」「近づかないほうがいい」と囁かれているのだ。


 その時から今日までずっとの七瀬が好きだったのだ。


 俺が告白に至る事ができた理由は、彼女と同名のもう一人の少女のおかげだった。




____




「ねぇ見て」

「地味だなぁ」

「親の顔が見てみたいわ」


 高校に入学してから一年間。高2の春になるまでの俺はそんな事を言われる毎日だった。今回、入学式以来二度目の隣の席になった百合園七瀬ゆりぞのななせは、今日も俺たちに向けられる罵声に「あはは」と愛想笑いを浮かべている。


 の七瀬は絶対に美少女だ。


 というのもそれは俺しか知らない。なぜなら俺と同じで七瀬は地味であるからだ。黒縁メガネからのマスク、そして手入れの行き届いてないだらしない髪と、笑ってしまうくらい俺と同じ装備なのだ。


 それでもずっと彼女と話していた俺は、彼女が女子力を上げて、オシャレとかしたら化けるんだろうなと睨んでいる。彼女が女子力を上げない理由は家庭の事情にあると聞いた事があるが、具体的なことは教えてくれなかった。


 俺たちは二人ボッチた。入学して隣の席になった俺たちだが、持ち前の地味さから、周りからは罵られ、友達も出来ず、そうやって余った俺たちは必然的に友達になったのだ。


 そして毎日のように一緒に話していたから、俺たちは周りから「フル装備陰キャカップル」と呼ばれるようになった。カップルではないのだが。


 高1の秋、お互い隠し事はなしだよと約束した彼女に、俺の好きな人は桐崎七瀬だと自白すると「知ってた」と返事が来て、そのまま相談に乗ってくれたのだ。どのように告白をすればいいか、場所はどこがいいか、セリフは何がいいか。そのような相談に乗ってもらい、結局は告白する勇気というものが一番求められている事に気づき、彼女に助けてもらったのだ。


 そして今日……手紙によって桐崎七瀬を屋上へ呼び出し、告白をした。





「次のテストで学年10位以内入ったら付き合ってあげる」


 答えはそれで、本当に予想外だった。承認でも否認でもない、保留というものだった。


 結果が出たら、その日の放課後屋上で待ち合わせという約束をした。


 もちろんこのチャンスを逃すわけにはいかなかった。なぜなら彼女は俺以外からもたくさん告白されていたが、全員断ったのだ。なのに俺だけは断らず、条件を与えてくれた。何か餌を与えられてる気はしたが、そんなプライドなんて無駄なもの俺はとっくに捨てた。


 元々俺は、学年のまあまあ上位には毎回入っていて、中学の頃から地頭はいいと密かに謳われていた。それを彼女は知っているみたいだ。なので俺は、必死に頑張った。毎晩寝る間も惜しんで机に向かい、地に足を着けて勉学に勤しんでいた。


 そしてテストを迎えた。


 手応えは恐ろしい程凄いものだった。翌日いつも通り一人で登校して昇降口に掲示された成績優秀者上位30人の欄を見て、目を疑った。いつも30位に入るか否かを争っていた俺の名前が、1位という数字の下に縦書きされていた。


 これには驚かされ、努力は報われるものなんだなと感じた。


 周りからは「森山康太って誰?」「あの陰キャか」「勉学だけが取り柄だもんな」案の定そんな声が聞こえてきた。


 なんとでも言え……俺は今から桐崎七瀬と付き合うんだ。お前らの声なんかどうでもいいんだよ。それよりこんなにいい事ずくめで俺は明日死ぬんじゃないか?


 そうして叫び出したい歓喜を押し殺し、トイレへ向かった。マスクを取り、顔を洗って自分の顔を伺う。これは夢か現実か。学年で一位を取った上、アイドル並みの美少女と付き合える。俺は心の中でガッツポーズをして、トイレを出た。


「どうすんの七瀬……あいつ本当に10位以内どころかに1位取っちゃったよ」


 その時、そんな会話の一文が聞こえてきた。桐崎七瀬とその友達との会話だろう。俺の話だろう。そして俺はその二人にバレないよう咄嗟に隠れて、聞き耳を立てた、


「本当、笑っちゃた。餌をあげたら本気になっちゃって。犬かよってね。そんなに私のこと好きなんだなぁ」


 ……え? 


 そういつだって余裕があるこの口調。桐崎七瀬の声だ。


「で、付き合うの?」

「もちろん。約束は約束だもん」

「でも、付き合いたくないんでしょ?」

「まぁね。全然タイプじゃなし」

「じゃあやってられなくない?」

「だって康太の家って金持ちでしょ? それに1位取ったみたいに、これからもそのまま頭良くなってもらって私に勉強教えてもらうの。それにいつ別れるかの決定権は私にあるわけだし」

「七瀬ったら性格わるぅ」


 そしてキャハハと笑い合って、二人は教室に向かってったようだ。


 俺は呆然とその場に立ち尽くした。そうか……俺はこの一年間騙されていたんだ。あの笑顔、あの愛想、全ては俺ではなく、彼女の持っていない俺の周りのものを利用したいがために向けられた偽物だったのか。


 彼女が、他の男子と違って俺だけに近づきてきたのも納得がついた。


 その時に感じたのは怒りではなかった。確かにその性格は汚いが、正論なのだ。俺に魅力がないことは。でもしょうがないじゃないか……どうやって魅力を磨けばいいんだよ。


 親は厳しく、必要最低限のものしか買ってくれない。でもスマホは買ってくれないから、オシャレなんかも知ることはできないし。部活は禁止されてるから運動もできないし。もう仕方がないな。


 でも……しばらくは立ち直れなそうだ。肩を竦めてその場に座り込んだ時だった。


「康太? 何してるの?」


 背後、百合園七瀬の声だった。教室の向かう途中にどうやら俺を見つけたらしい。


「オシャレがしたい」

「まかせて」


 なぜか自信ありげな彼女に、その心はと尋ねると、どうやら彼女はオシャレを抑制されているだけあって、メチャクチャ詳しいらしい。それはもう……異性までと。七瀬に懇願すると首を縦に振ってくれ、明日の土曜日の午後に、彼女の家に行くという約束をした。


 そして俺とって、果たすべき約束の時が訪れた。放課後……。屋上へ出ると、既にそこには桐崎七瀬の姿。


 彼女は俺に気づいたようで口を開く。


「おめでと、一位だってね」


 褒めているのは口だけで、全身から歓迎してないのが分かってしまう。結局上辺だけだった。


「じゃあ約束通り付き合──」

「ごめん。よく考えたらさ、俺お前のこと好きじゃなかったわ。だから忘れて」

「え?」


 俺の返答は、クズ野郎のするような事だが俺はクズでは無い。彼女にしてはとても珍しい驚愕の表情をしていて、少し勝ち誇った気持ちになってしまう。


「だからさ、これからはお互い別々に」

「ちょっ!?──」

「じゃあ」


 確かに彼女の求めているのは俺ではなく俺の身の回りのもので、それがなくなるというのは嫌だろう。でも桐崎七瀬ならきっと俺よりも金持ちで頭も良くて、魅力のある人は簡単に捕まえられるだろう。これは自分を守るためだ。


 次の言葉を聞く前に去った。



 その日の夜は、泣きすぎた。人はこんなに涙が出るのかと言うほど泣いた。この一年間、人生の中で青春という貴重で大きなこの一年を俺は棒に振られたのだ。





 俺はお前を……桐崎七瀬を絶対に許さない。

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