アレがない
雲田和夫
第一章 アレのない社会に生まれて
西暦2039年。「K」はアレのない社会に生まれた。
大規模な感染症により、人類は文明の衰退を迎えるほどの大打撃を受けた。
人類は教訓としてアレを用いない、濃厚接触をしない生殖方法を発明する。それは人工生殖である。
「K」は試験管の中で受精し、生命維持装置につながれて成長した。
彼の遺伝子グレードはD3であった。
この世界では、人工授精に用いる遺伝子にグレードが、格付けがなされている。遺伝子は商品であり、人々はそれを売買した。
D3は下から5番目。グレードとしては低いほうだ。
遺伝子グレードはSNSのフォロワー数に比例した。
人々はフォロワー数を増やすために、セックスアピールを争った。
セックスアピールは、それを演出する装置を購入することで増加することができた。人々は競ってその装置を購入し、投資した。
「K」もやはり装置を購入した。しかし、彼が買った装置は下から2番目のグレードであった。
なので、フォロワー数の増加は期待できなかった。彼は嘆息した。
「これでは、私は永遠に下級グレードだ。」
「K」は装置を分解した。黒く長い四角の金属ボックスを見つけるやいなや、力づくでそれを取り外した。
そして、それを持って、行きつけのカジノバー、「バンドオンザラン」に向かった。
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