短編なんだってば!その3


 俺は今追い詰められてる・・・。


まさかこんなことに成るなんて・・・。


いくら後悔しても足りない。


会社のトイレで、しているところを、よりにもよって会社で一番きついと言われている


相川 由香里に見つかってしまうなんて…。




相川 由香里あいかわゆかり27歳。


ウチ(販売促進部)の主任の肩書きを、25歳の若さで手に入れた才女。


仕事が出来る女。クールビューティー。美しさと才能を、そう讃えられる反面


冷血の女王、鉄の女とも揶揄される性格のきつさと冷たさを持つ女。




「結城くんさ・・・今、就業時間中よ?何をしていたのか言いなさい]


黒い切れ長の瞳が、俺の目をまっすぐに見つめている。


「え・・・いや・・・その、トイレですよトイレ・・・。」


視線の放つ圧力に耐え切れず、床に視線を落としながら答える。


「あの、まだ仕事が残ってるので、もう行ってイイですか?」


その場から逃れたくて、無理やり作った口実。しかしすぐに見抜かれてしまう。


こういうシュチュエーションじゃなければ、見とれてしまうような、白くしなやかな指が


素早く俺の服の袖口をつかみ、予想外の強さで引き寄せる。


バランスを崩した俺は、主任の胸元に倒れこみそうに成る。


そんな俺の背中に、軽く腕を添えて支えると、主任は素早く俺の耳元に口唇を寄せて


ささやいた。


「・・・ここで出しなさい‥・・。」


囁くような声。甘い吐息。俺は一瞬、自分が何を言われたのか理解できず


ただその吐息をぼんやりと感じていた。


「ここで出しなさい‥・早く。」


俺が無反応だったのがかんに触ったのか、先程よりいらだちの色を含んだ


少し大きめの声が、僕の耳朶を打つ。


「え?あ・・・その・・・ここで?」


間抜けな俺。間抜けな声。


「ここで出しなさい。ほら・・・早くしないと皆見てるわよ。」


主任の言葉に、周りを見回すと、何人かこっちを見ていることに気づく。


また結城の奴、失敗して主任に絞られてやがる・・・・そういうふうに見られてるのか。


それとも‥・バレてるのか?


俺がトイレで何をして、そして主任に何を言われているのか、皆知ってるのか?


猜疑が胸を締め付ける・・・鼓動が早くなり、口の中が乾いてしょうがない。


何度かつばを飲み下し、かすれる声で俺は告げる


「ここで・・・・ですか??主任」


俺の言葉に、主任は僅かに目を細め、無言のままうなづいた。


赤い舌が、血のように赤いルージュの引かれた口唇を軽く舐めるのが見える。


俺にはそれが、獲物を前にした肉食獣の姿に見えて


背中を冷たい汗が流れるのを感じた。


躊躇して動かない俺を、主任の視線が促す。


俺は、その視線に抗うことが出来ず・・・ゆっくりとベルトを外し・・・


ズボンの下。トランクスのゴムに挟んでいたあるものを取り出す・・・。




「月夜見著 ダメ男の勧め」


そう書かれた一冊の文庫本がそこから出てくる。


「やっぱり!就業時間中にこんなモノ呼んでいたらだめじゃないの。結城くん・・わかってるわよねぇ・・」


主任の口唇が釣り上がる。目尻も同じように釣り上がる‥・・角が生えてくるのも見えるようだ


やれやれ・・・俺のトイレでの読書というささやかな楽しみが‥・


今夜も帰れそうにない‥・さよなら僕の楽しいmixiライフ・・・・






END




出だし官能小説風、実はしょうもない話。

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月夜見短編集 安濃津 伊勢 @varzardol

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