569・竜のゴーレム(ファリスside)

「【フラムブランシュ】!」


 彼女お得意の白い炎を宿した熱線を放つ魔導は竜のゴーレムの上半身を包み込む。直撃を受けたそれはなすすべなく地に伏す――はずだったのだが……。


「う、嘘だろ……」


 呆然と呟くワーゼル。それもそのはず。竜を模したゴーレムは一切傷を負っておらず、普通に動いていたのだから。


「なるほど。これは頑丈ね」

「【クレイスピア】!」


 ファリスの魔導が効かなかった事を見届けたと同時にククオルの土の槍が竜のゴーレム突き刺さろうとする。……が、当たったと同時に先端が砕け、結局これもまた傷一つ与える事は出来なかった。


 しかしその攻撃が煩わしかったのか、竜のゴーレムはファリス達に向かって炎のブレスを吐き出してきた。二人がそれを避けている間……。


「くそっ……! 何やっているんだ俺は!!」


 一人置いてけぼりにされていたワーゼルはその炎から逃れる事が出来た。その事で自分の足が竦んでいる事に気付き、一喝するように声を出す。血気盛んに剣を抜き、ゴーレムに突撃していく。


「喰らえ!!」


 上手く懐に潜り込んだワーゼルは気合を入れて振り下ろした斬撃は鈍い音を立てて無防備に受け止められてしまった。


「ちっ……」


 舌打ちをしながらも切り返して再び同じ場所に斬撃を加える。一度で駄目なら二度。それも駄目なら三度。それを続けている内に煩わしくなったように前足を振り上げ、圧し潰そうとしてきた。すんでのところで避けたワーゼルと交代するようにファリスとククオルが追撃を掛ける。


「【ソイルウェポンズ】!!」

「【炎壊潰えんかいつい】!」


 地面からは様々な武器が出現し、上空からは炎の塊がハンマーを振り上げるような挙動を取り、竜のゴーレムに叩きつけた。それも全くの無傷。むしろ軽い攻撃にうんんざりするかのように叫び声をあげる。


「グルアアアアァァァァッッ!!!」


 それと同時に魔力を帯びた咆哮が地面を抉りながら周囲にいた者達を吹き飛ばす。当然ファリス達も巻き添えに。

 あくまで吹き飛ばされているだけで傷はなく、ファリスの方は難なく体勢を整える。


「魔導は効かない。物理攻撃もびくともしない。本当に厄介な相手ね」

「あの蝶が一気に湧き上がる魔導は駄目なんですか?」


 ワーゼルはファリスの【幽世かくりよの門】やククオルの【妖死燃蝶あやかしねんちょう】の事を言っていたのだが、それはファリスが首を横に振って却下した。


「わたしのもククのも生きていない物には効果がない。無駄に魔力を消費するだけ」

「そ、そうですか……じゃあ、どうしますか?」


 悔しそうに竜のゴーレムを見ているワーゼル。彼自身ククオルよりも魔導が得意ではなく、近接戦闘を主軸に置いた戦い方しか知らない。その攻撃が一切役に立たない現状では彼は敵を引き付ける囮のような存在にしかなれない。その事が非常に悔しかったのだ。


 ワーゼルが悔しい思いをしている一方、ファリスも悩んでいた。


(多分ククもワーもあれには太刀打ち出来ない。全力を込めた【フラムブランシュ】でも傷一つ吐かなかったのだもの。だったら――)


「全員離れて!! 特大の行くから!!」


 周囲でもまだ竜のゴーレムを相手取り戦っている猫人族達にも聞こえるような大声で勧告し、彼女は本気でイメージを練り込み魔導を作り上げる。かつての自分だったはずの人物がイメージした魔導。今まで手足のように使ってきたもの。自分が一から作り上げた物ではなかったがその威力から絶対的な信頼を寄せている最強の一撃。


「【エンヴェル・スタルニス】!!」


 解き放った魔導によって空がひび割れる。世界が黒い涙を一滴。竜のゴーレムが暴れまわる様に涙を流しているようにも思えるそれは静かにゴーレムの近くの地面に吸い込まれて行き、黒い魔力が球体を作って徐々に大きくなっていく。竜のゴーレムはそれに向かって炎のブレスを放つ。しかし球体はそれを飲み込みながらも徐々に拡大していき、やがて全てを飲み込んでいく。


「やった……!!」


 ファリスは後ろで聞こえるワーゼル。それに対しククオルも期待に笑みを浮かべそうになるが、彼女の表情は一気に絶望に変わってしまう。【エンヴェル・スタルニス】で展開された黒い球体が収まっていくと同時に姿を見せるのはあちこちにひびが入り、金属の身体がぼろくなってはいるものの完全に破壊するまでには至っていない。


「……嘘、だろ……」


 ぽつりと呟いた絶望。ファリスは魔導に全力の魔力を込めたのだ。まだ軽い倦怠感があるだけで戦うのになんら支障はなかったのだが、まだ戦いは続く。何発も全力でこんな大規模の魔導を放っていたらあっという間に魔力切れで戦えなくなるだろう。かつて聖黒族を統べる程の存在になった初代魔王とは違い、ファリスの魔力には自分が理解出来る上限が存在するのだから。


(……ちょっと不味いわね。この調子だったら他の魔導は効かないだろうし、残った手は――)


 竜のゴーレムがまだ健在である事実に驚愕しながら、次にどう行動しようかと作戦を考えるのだった。

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