541・監獄町の探索(ファリスside)

 ファリスはまず索敵から行う事にした。


 ――とは言っても、彼女はまだ補助的な魔導は強化系ぐらいしか上手く扱う事が出来ない。特にあまり戦闘に役に立たないものはイメージがしにくいという理由で発動すら試していない事もざらだ。ならば自分の目と耳でどうにかするしかない。という訳でファリスは【シックスセンシズ】を用いて感覚を研ぎ澄ませてやってくる者を感知する事に集中した。苦手な分野は得意な事でカバーする。周辺に敵がいない事を改めて確認したファリスは、慎重に動き始める。戦うのは簡単だが、リュネーが見つかるまでは敵に見つかる訳にはいかない。幸いにも倉庫を監視している者はいない。扉を可能な限り音が響かないように開け、怪しくないように閉めてから行動に移す。ここで最優先事項はリュネーを探す事。次点で仲間達と合流する事だ。だが、二つ目はリュネーを探していれば自然に達成できる。


「リュネー……姫はどこにいるのかしらね」


 一応姫は付ける適当さだが、そんな軽口とは違い、ファリスの表情は真剣そのもの。どんな些細な事でも見逃さないように感覚を研ぎ澄ませていた。視覚で遠くの敵を見つけ、聴覚で足音や会話等を聞き取り、リュネーが拘束されている場所の特定と同時に死角になっている場所から歩いてくる敵の存在を探る。嗅覚は……今回もあまり役に立っていない。それはいつもの事だが。


『ひゅー……ひゅー……【キュ、キュアヒール】』


 索敵を続けながら歩いていると、多少遠くから声が聞こえた。くぐもっており、息をするにも苦しそうな声。治癒の術を発動してしばらくすると――


『がっ……あ……』


 何かが締まる音と共に首を絞められて苦しそうな声が僅かに漏れる。アイシカ達から現在のリュネーは首輪をされており、治癒系の魔導を発動させると首が締まるようになっていると報告を受けていた。実はファリスが【シックスセンシズ】を発動する直前までダークエルフ族の男達に痛めつけられていたのだ。なんとか呼吸を落ち着かせ、身体の痛みに耐えきれなくなる前に治癒魔法を発動させていた。ボロボロにされた直前では魔導はイメージが乱されて発動しても大した効果を得られない。そこで彼女がとった行動はイメージを必要としない魔法を発動させて僅かでも回復量を底上げする方法だった。しかし回復が早ければ、もちろんダークエルフ族が黙っているはずもなく、もっと殴る回数を増やしても良いだろうと頭の悪い結論に至る。そしめ身体が癒える速度が上がったのをいいことに調子に乗って痛めつける回数を増やした結果――ちょうど時間が重なったという訳だ。


(見つけた)


 まだ詳しい場所は特定していないが、少なくとも今ファリス自身がいる場所からそんなに離れていない。はっきりと魔法名がわかるほどの距離であれば、彼女の探し出せる範囲に存在することになる。現在の鋭敏な感覚であれば上下左右のどこで声がしたかもわかる。先程の声は建物の中から聞こえており、決して上の階層や地下ではない。そこまでわかれば後はめぼしい建物を見つけるだけだ。

 他にも苦しげな声が聞こえるところから、大きな建物に複数人閉じ込められているだろうことも察せられた。


 様々な者達の痛み嘆きの声を頼りに敵兵の所在を確認しながら進んでいく。正面からやってくるであろう敵から建物の影に隠れやり過ごし、会話をしている者達の背後を音を立てずに駆け抜ける。

 店や家の影に潜みすり抜け、極力接敵を防ぐのだが――


 ――ピュイイイイイイイ!!


 鋭い感覚では更に強く響き、ファリスは思わず耳を塞いだ。大きな笛の音。潜入した彼女達がこんな音を鳴らす訳もない。必然、これは敵であるダークエルフ族が鳴らしたものだ。それが意味するところ――潜入した誰かが見つかったという事だ。周囲の音と気配を探る。誰が来ても良いように注意深く確かめていると、どうやらファリス側には向かっていないように感じ、むしろ遠ざかっているようにすら思った。

 恐らくオルドが見つかったのだろうと推測したが、実際その通りで結局その体格に生来の性格が相まっていつまでも隠れる事が出来なかったのだ。現時点でファリスがそれを知る事はないのだが――


(まああの図体だし、見つかるのも時間の問題だったしね。出来れば合流してあげたいけど……こっちが先だしね。やれない訳じゃないんだからわたしが行くまで出来るだけ生き残ってくれるでしょう)


 今は救出が最優先。それはここに集った誰もが知っている事だ。オルドが見つかり騒ぎを起こしているのはファリスがいる倉庫・監獄とは逆の位置。侵入者を迎撃する為にダークエルフ族はオルドの方に向かっている為、彼女側にいるであろう敵兵はオルドの方に意識が向いている。その中でようやく辿り着いたそこは大きな建物で入り口が一つ。見張りが二人といったところだ。外から見た限りでは他の者の存在を見つける事は出来ないが、ファリスの強化された聴覚で内部にも敵が存在する事が音によって聞き取る事が出来た。


「【スピソニック】」


 発動した魔導によってファリスの速度は爆発的に上昇する。騒動が起これば内部の者達に気付かれてしまう。ならば、その暇すら与えずに即座に叩き潰す。結局のところ、力尽くではあるが、ある意味ファリスらしい行動だった。

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