536・ファリス潜入作戦(ファリスside)
血相を変えたアイシカとガルファがなだれ込む様にファリスのテントに押しかけてきた時には周囲が騒然となった。それも無理からぬ話だろう。今までこんな風に彼女達が現れた姿など見たことがないのだから。
感情を落ち着かせて
(それでも一応生きているみたいだね。死んでたら多分落ち込むとか悲しむとか……そんな表情を浮かべて帰ってくるだろうし)
こういう事は大体表情で読めるものだ。一目散にファリスの元に集まった二人は勢いよく膝をついて頭を垂れる。
「ファリス様。リュネー姫の居場所を見つけましたにゃ」
「今も必死に命を紡いでいますが、それもいつ消えるか……お願いしますにゃ。
周囲にどよめきが走る。リュネーが生きていたことに喜び、緊急性の高い話だということで
「まず、場所を教えてちょうだい」
「は、はい」
「誰か! 急いで地図を持ってきて! 早く!!」
ファリスの命令に恐らく今までで一番早く行動に移しただろうと思える程の速度で猫人族の一人が地図を持ってきてばっと机に広げる。
そこからアイシカとガルファの熱の入った説明が繰り広げられる。具体的王都から見て西部に当たる場所。鳥車を使えば大体三十分くらいにある町だ。
ダークエルフ族が作った拠点ではなく、元々シルケットにあった町であり、彼らが無理やり占拠して牢獄を築き上げたそうだ。平野で近くに森があり、外は見晴らしが良く見張り台が設置されている。通常は簡単な防護柵がしているだけであったが、今は城壁と見紛うかの如く高い壁が築かれている。ダークエルフ族が猫人族を用いて作り出した。守りは厚く、王都の近くの町を占拠している為警備の目も多い。アイシカ達のように魔導を用いて変装でもしなければ入り込む事すら不可能だろう。……もちろん、通常の方法ではだが。
「……これはかなり厳しいですね」
アイシカ達が地図に指し示した場所と周囲の情報を知って、唸り声を上げながら悩ましい言葉を口にした。彼から見ても専門家以外の侵入は中々厳しいだろうという判断だった。ちらりと視線をファリスに送ると、彼女も考え事をして……決断を下した。
「やっぱり作戦しかないみたいね」
「あの作戦?」
他の全員がきょとんとした様子をしている中、ルォーグだけは静かに頷いていた。彼と長い事話していた補給隊を差し向け、ファリスを含めた数名が忍び込んでわざとダークエルフ族に襲われやすい経路を使って奪わせる――という作戦だった。まだ他の者達に説明しておらず、最後まで他の可能性を探りながら調整する方向で進んでいた。誰も知らなかったのだからそんな反応にもなるだろう。ルォーグは彼らに改めて説明を初め、現在決まっている具体的な案を伝える。襲わせる方法やファリス以外の潜入者の選別。そしてその後の方針。しかし全ての説明を終えた後の周囲の反応は――難色を示していた。
「それは本当に上手くいくのかにゃ?」
「襲わせても発覚する可能性があります。探索系の魔導を使われればすぐにわかるでしょう」
「それに複数を忍ばせるとしたらそれなりに大掛かりになります。逆に怪しいのではないでしょうか?」
一斉に言われる彼らの意見はどれも正しいものだった。二人がその問題にぶつかっていないはずもなく、選別を終えていない以上どの規模の大きさになるか不明だった。
「まだはっきり答えられないけれど、魔導には同じ魔導を用いる。妨害を得意とする人がいればそこは問題ないと思う。大掛かりになるのはわかる。まだ具体的な人数も決まってないから何とも言えない。それでも今すぐ行動に移さないといけないなら、時間は残されていない。そうでしょう?」
ファリスは二人で考えていた返答を口にし、改めて彼らに突き付ける。『批判するのは良いが、リュネーの状態が刻一刻と悪くなっている状況で潜入作戦に悩んでいるような時間があるのか?』と。
「ですが、敵の堅牢な守りを抜くにはこちらも入念な準備をして――」
「その間にリュネー姫が死んでなければいいけど」
それでもわかっていない愚か者にかみ砕いて説明する。それでようやく事の次第を理解出来た男は、自分で案を出せる訳もなく黙ってしまった。
「今は一刻の猶予を争う。案を出すことが出来ないなら、そのままルォーグの出した案で行く。いい?」
周囲で話を聞いていた兵士や作戦参謀の者達は全員が押し黙り、やがて誰からともなく頷いて全員がルォーグの作戦を認めた。時間がない事を盾にしたと言えば聞こえは悪いが、リュネーの居場所が見つかるまで時間は十分にあった。その間に何も考えずにいた者。思いつかなかった者に彼女達がここまで話し合い、練り上げてきた作戦に対抗する案が出せるはずもなく……若干の不安を抱えながらもルォーグの作戦を実行に移すこととなった。
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