528・手に入れた成果(ファリスside)
廃墟と化したダークエルフ族の防衛拠点に傷オーク族の隊長とその部隊が先行して慎重に中に入る。外と中から同時に破壊したからといって決して油断する事は出来ない。
「がぁっ……!?」
「まだ生きている者がいるぞ。気を引き締めろ!」
「はい!!」
いとも容易く斬り伏せられた兵士に一瞥する事もなく、部下達に警告する。地下にはまだ逃げ遅れたダークエルフ族が多く、まともに索敵魔導は機能しない。自らの目で確かめながら警戒するしかないのだ。
「オルド隊長! こちらの制圧は完了しました!」
「こちらもです!!」
入念に調べ、生存者がいない事を確認した兵士達から報告が次々と上がってくる。傷だらけのオーク族――オルドは表情の変化もなくただ頷くのみで留まる。この程度で喜んだり感情を表す事はしない。
「よし、ならば本隊に伝達。敵兵の姿なし。完全制圧完了とだけな」
「了解しました!」
部隊の中で一番足の速い兵士を選び、ファリスのいる本隊への伝達を任命する。喜び勇んで敬礼をして走り去っていく。そんな後ろ姿を見ながらまだまだ若いな……などと考えていたオルドの頭にあるのは、結局来なかったジックとヒューンが率いていた部隊の事だった。彼ら自身には何の思い入れもないし、どうなろうがオルドの知った事ではないが、それなりの戦力を持っていたはずの彼らが丸一日姿を見せなかった事に疑問を感じていたのだ。必ず都合の良いところにやってきて利益だけを掠めとるだっろう。
半ば確信を持っていたため、実際誰も来ないという事に違和感しかなかったのだ。
「どう?」
制圧完了の知らせを受けたファリスはオルドの前に姿を現す。他にも報告を聞いているようで、近くには作戦参謀のルォーグが側にいた。オルドの部隊の兵士達は若干参謀達に苦手意識があり、
「問題ありません。残党処理もまもなく終わりましょう」
「そう。中々手際が良いのね」
「ありがとうございます」
(うーん、わたしの索敵もわかりにくいし、まだ生き残りがいるかもだけど……まあいいか。なんとかなるし)
オルドの言葉を信用していない訳ではなかったが、姿を消す魔導を操る者がいないとも限らない。どんな事が起こってもいいように考えて動くのが一番なのだ。
「……ここは大丈夫そうね。別動隊の方は?」
「そちらは未だ報告待ちです。今は地下のダークエルフ族達が脱出している最中でしょうし、もうしばらく時間が掛かるかと思います」
オルド達が廃墟の中の生き残りを探している間にアイシカ達が唯一残した脱出口に待機している別働隊の報告が未だに来ない以上想像でしかないが、わざわざこちらの道を再び開通させる意味もない。かといってやる事もない。けっきょくしばらくの間ここで待ちぼうけになるのであった。
――
遅めの昼を終え、陽が傾き始めた頃。一度後退する事を視野に入れ始めていたファリスの耳に伝令兵が走ってきている事が伝わった。
「やっと来たのね……」
若干うんざりした声がファリスの口から零れ落ちるが、そもそも彼女の得意分野は殲滅であり、捕縛や細かな作戦を用いた戦いなどは全く向いていないのだ。おまけに作戦行動中はずっと後方で待機しており、必要な時だけ声を出していただけなのだ。暇を持て余していただけに退屈するのも無理もない。
ファリスの前に現れた伝令兵はそれなりに急いできたのだろう。少しだけ息が上がっているようだった。
「お、お待たせしました。ファリス様」
手こずっているのを自覚していたのだろう。兵士は到着して早々申し訳なさそうに頭を下げた。
「うん。で、どんな感じ?」
「はい。捕縛は現在も順調に行われておりますが……二点ほどお伝えしなければいけない事がありまして……」
何故か言葉を詰まらせている兵士だったが、ここで焦らせても意味がないと思ったファリスはじっと待つことにした。少し溜めてから覚悟を決めたように口を開きだした。
「まず一つ。予想以上にダークエルフ族の数が多く、未だに時間が掛かっております。それに応じて彼らを隔離しておくには場所が足りないかと……」
「それは――」
困ったことになったな……と面倒くさそうにため息を吐く。しかしすぐさま持ち直すことにした。どうせ自分には無理なのだからルォーグに任せておこうとさっさと結論付けたのだ。こういう時だけ信用している都合の良い関係だったが、彼女にとってそんなのは些細な事だった。
ファリスが何を思っているのか察したルォーグの方は気が重いのか沈んだ表情を浮かべていた。
「……はぁ、何か案を考えておきましょう。ベルン様達もそれについては考えていただけるでしょうから」
「それで、もう一つの報告は?」
頭に手を当てているルォーグを無視してファリスは先を促した。どうやらこちらはまだマシのようで、これからが本命――なのだが、兵士は言い渋るように視線を彷徨わせる。
またか……と思いながらもここで怒りを滲ませてはならないとグッと拳を握って次の言葉を待つのであった。
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