522・動き出した作戦(アイシカside)

 持ち帰った情報のおかげで決まった作戦により、アイシカとガルファは再びダークエルフ族の拠点へと潜入する事になった。幸いにも記憶を失った門番のおかげで再潜入は容易であり、前回と同じように『メタモルミスト』によってダークエルフ族の姿になった彼女達は、かなり堂々と拠点の中をうろついていた。大きな荷物を背負っていたからか中身を改められたが、そこはガルファの魔導で切り抜けることにした。


 そのおかげで悠々と中に入ることが出来た二人は、破壊工作に使う爆薬の設置場所を相談していた。


「さてと……どこに設置しようかな」

「物資が置いてある場所は確定として……あの部屋は避けなきゃいけないよね」


 アイシカの言っている『あの部屋』とは地下へと続く階段が存在している部屋の事だ。戦いが終わった後は彼らを捕らえる必要がある。その時に階段や抜け道が存在する部屋は除外した方がいいという考えだった。

 内部を詳しく教えてもらえた結果、最初に教えてもらった部屋以外にも抜け道や階段が存在する事を教えてもらっていたのだ。出入り口が一つだけではいざという時に困る。非常口のようなものが複数あるのも当然な話だった。


「いや、逃走経路を絞る為にもいくつかは塞いでおこう。最初の部屋よりも緊急脱出用に設置してあるものを残しておいた方が良い」

「あの外にあるやつ? でも逃げられるんじゃないかな」

「そこをなんとかするのが兵士達の仕事だろう。ここのを残したら瓦礫がれきで隠れる場所も多いし、下手をすれば死人が出る。少しでもそれを避けた結果だと言えばあの人なら納得するだろう」


 可能な限り死人を出さない事。それが作戦を行う前にファリスが決めた事だった。もちろん少なければいいが、最悪数人確保できれば問題ない。しかし、今まで挙げた功績の事を考えれば、最大限努力をして仕事を達成しなければならない事をガルファはわかっていた。だからこそ拠点内部の出入り口を残さず、その外に作られた非常口一つに絞り、そこだけを見張っておけば問題ない体制を築こうとしたという訳だ。


「わかった。なら終わった後はファリス様に知らせないとね」

「そうだな」


 軽い口調で話をしながら魔導具を設置していく。簡易的な箱だが、中には少量の火薬と魔石が入っている。少し時間は掛かる上に威力は高くないが、他にも火薬を仕掛けておいて連鎖させるように爆発を起こせば問題ない。要は発火剤としての役割を果たせばそれでいいのだ。


 魔道具の近辺に爆薬を中に入れた箱を目立たない場所に置いて、見つかる確率を下げる。いくらガルファの魔導があるとしても限度がある。この場所から離れている間に見つかってはどうしようもないし、そう何度も連発できるような魔導でもない。本命の場所以外はある程度部屋が塞がる程度で丁度良いのだ。


「それで、次はどうする? 宿舎の方も設置しないといけないが……」

「そこが良いかもね。最後に武器庫に入って離脱しよう」


 手分けをせず、一人が見張り、残った方が設置する。確実性に欠ける事はしない。それが二人には染み付いていた。


「そこの二人! 何をしている!?」


 部屋から出ようとした時にダークエルフ族の兵士に見つかり、咎めるような声を上げながら近づいてくる彼にこっそり舌打ちをする。


「すみません。まだ慣れていないもので……」

「……最近来た者か? そんな話は聞いていないぞ」

「今日ここに辿り着いたばかりなんですよ」


 にこやかな対応を続けるアイシカの後ろで警戒している兵士の挙動を見守るガルファ。少しでも行動を起こそうとするなら即座に封殺する。そんな気持ちが見え隠れしている。

 そうとも気付かずに質問を続ける兵士の姿は滑稽こっけいでもあった。


 最初は警戒心が強く、付け入る隙を見せそうになかった兵士であったが、アイシカと話を続けているうちに段々と胡散うさん臭いものを見るような視線へと変わる。いまいち信用できないが、敵対するほどではない――そう感じた兵士との距離を一気に詰めたガルファは瞬く間に後ろから兵士を羽交締めする。

 ――とはいえ、元々今の身体は『メタモルミスト』で見せている幻影に過ぎない為、猫人族の身体全てを使って後頭部に

 乗っかっているだけなのだが。


「な、なに!? なんで毛が……!?」

「じゃあにゃ。『メモリーショート』」


 唐突なもふもふに驚いている内にガルファの魔導によって頭に電流が奔るかのような傷みを感じ、意識をシャットアウトさせてしまった兵士は、あっという間に倒れてしまう。


「……ふぅ、まずは一人、と」


 アイシカによってあまり人の視界に入らない部屋の隅へと追いやられた兵士にはそれ以上視線を向けず、二人は部屋を後にした。


 ――それから十数分後に目を覚ました兵士は直近の記憶を覚えておらず、なぜ自分がベッドにも入らず部屋の隅で倒れていたのかしばらくの間本気で悩むことになった。

 ……もっとも、それが無駄になるのはそう遠くない未来だった為、あまり意味はなかったのだが。

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