521・始まりし攻防(ファリスside)

 潜入したアイシカとガルファの情報開示。そしてファリスが持っていた情報を擦り合わせた結果、エールティアの時のように巨大な光で焼き払われる事はないと結論付けられる事になった。彼らは数が少なく、これから戦争を続けるためにはどうしても戦力が必要になる。複製体を投入し続けるにも機械兵を生産し続けるにも人員が必要になる。後々の事を考えれば戦力になりうる存在を消滅させることなどするはずがないというのが連合軍の大多数の考えだった。これに関して言えば派閥関係なくの一致の為、初めて連合軍が一つになった瞬間とも言えるだろう。

 これを前提に改めて作戦を練る事になった。隠密の二人が手に入れた内部構造を元に彼らを含め更に数人を送り込み、内部から破壊活動を行う事を反ファリス派側から提案され、遠くから魔導による攻撃を行い、狼型の機械が出現した時に猫人族以外の種族で対処するという作戦がファリス派から提案される。その結果、何が起こったかと言うと――


「そんな作戦が上手く行く訳がないだろう! 内側からなどと……一体いつまで掛かると思っている!?」

「それはわかっているにゃ! でも、これが人員に被害を出さない最適解なのにゃ!! 時間は掛かるかもしれないにゃ。それで他のダークエルフ族が動くかもしれないにゃ。だけど死傷者は絶対的に少なくなるのにゃ!!」


 大きな声で吼えるように噛みついてくる魔人族に対し、こちらも負けじと声を張り上げる猫人族の男。眼鏡を少しくいっとしている動作が妙に賢さを強調しているような気がする。


「……埒が明かないですね」


 ふぅ……と一息ついて冷静さを取り戻すルォーグは、どうすればファリス派が納得出来るか苦心していた。

 ファリスの言う事ならば恐らく聞くだろうが、彼女はそれを望んでいない。力を見せろという事は要は彼らを納得させた上で成果を上げろという訳なのだ。ここで自分達の意見が通らなかったからといってファリスに助けを求める訳にはいかない。出来れば彼女が率先して何か言ってくれれば――。そんな甘い期待を抱いてはいるが、同時にないであろうことはわかっていた。あまり興味のなさそうな顔をしている事がその証拠だろう。


「ファリス様、どう考えますか?」


 しかしそんなことなど知らないと言うかのようにファリス派の一人が彼女に同意を求めるように声を掛けた。若干顔を強張らせる反ファリス派だが、その中でも興味がない事を理解していたルォーグは余裕な表情をしていた。


「わたし?」

「ええ。このままではいつまで経っても話は進みません。ここはこの軍を率いる貴女に決めていただければと」


 ふぅむ……と腕を組んで少しばかり悩む様に首をひねるが、ファリスはただ面倒だなと思っているだけだった。

 殲滅せんめつでない以上、彼女の活躍できる機会は少ない。そのうえ敵の民は捕らえなければならないのだから広範囲の魔導を発動させる機会は余計にあり得ない。それを決めたのは他でもならないファリスなのだが、それでも面倒なことは事実だった。


「……破壊工作にはどれだけ時間が掛かるの?」

「にゃ、にゃ?」


 まさか興味を示されるとは思っていなかったのか、質問にそのまま返してしまい、間抜けな顔を晒してしまう猫が一匹。慌てて調子を取り戻そうとしているが、驚愕の表情は中々もとには戻らなかった。


「え、えっとですにゃ……。アイシカさんとガルファさんの二人でしたら、七日程あれば……」

「それは長すぎるのではないか? そんなに悠長に時間を掛けている場合ではないだろう!」


 おどおどと言っている間にファリス派の兵士が強気に物を言う。同意を求める視線を投げかける彼だったが、対してファリスの反応は冷ややかなものだった。


「今はその人に話を聞いているの。あまり邪魔をしないで」


 まさかそんな反応を返されるとは思わなかったのか、今度はファリス派の男性が驚くことになった。ファリスにとって一番大事なのは兵力を下げず、損害を抑えたまま勝利を収める事。圧倒的な勝利こそエールティアに相応しい。過程や行動が問題なのではない。結果だけが全てなのだ。


「それで、成功する確率は?」

「は、はいですにゃ。二人次第ですが、ダークエルフ族に同胞として認められれば多少不審なところにいてもそこまで疑いの目は向けられないと思いますにゃ。現に彼らは案内を受けておりますし、かなり高いと思いますにゃ」


 アイシカ達はどうやって拠点の内部構造を把握したのかについて説明する時、方法は言わなかったが味方だと思わせる魔導を発動させたとだけ説明していた。方法は定かではないが、ダークエルフ族と接する事が出来るのであればそれを利用しない手はない。

 こちらに興味がある事を察した猫人族の参謀は、ここぞとばかりにメリットの説明へと走った。


 結果、ファリスを納得出来るだけの成果は得られたようで、珍しくその案がそのまま採用される運びとなった。これが面白くなかったのはファリス派と呼ばれる兵士達だった。戦いに重きを置いている彼らからすれば下手な小細工など必要ない。真正面からぶつかり合って勝利を収める事こそ『戦い』なのだ。

 しかしそれを知らないファリスが上になっている以上、大人しく従うしかなかったのだった……。

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