490・予想外展開

 疲弊して帰ってから数日。気力を取り戻した私は残った二つの拠点攻略に動き出した。……まではよかった。結果的に、残りの二つは完全にもぬけの殻で、動かないクーティノスとアーマーゴレムのみが残っていた。地下への道も全く隠していないし、部屋には何もない。

 私の【サーチホスティリティ】で地図を表示しても敵対している勢力は全く残っていなかった。


 敵が一切いないこの事態に、ジュールは「ティア様に恐れをなして逃げた」と言っていた。ファリスも僅かだけどそれに賛同していて……実際は違うだろうという考えを静かに封殺する。どうせ後に知ることになるのだし、今の二人に真実と思えるものを告げても意味がないからだ。

 本当のところ、彼らの思惑が達成されたか……もしくは何らかの成果を得たか。この二つのどちらかだと思う。


 今までどんなにこてんぱんにしても向かって来たダークエルフ族がこんなにあっさりと引くなんて考えられなかった。そんなにしおらしいなら、最初からこんな戦い挑んでこないだろう。そこまで考えて真っ先に頭に浮かぶのはプレートアーマーで構築されていた機動兵器。次々と学んでいったその存在への脅威は、実際対峙した私くらいしか理解できないだろう。

 もし……いや、そんな仮定の言葉じゃない。あれが一点物ではなくて、複数……それも量産に成功していれば、彼らは間違いなく戦争に組み込む。既に何らかの標的と戦って経験を積んでいるかもしれない。学ぶのにどれだけ上限があるかはわからないけど、少なくとも魔導と武装を使用していない私に迫る程の実力は身に付けられるだろう。

 そうなれば並大抵の兵士では敵わない。流石に骨が折れるとかそういう苦労話では済まなくなってくるはずだ。


 それなのに……呑気な感じで過ごしている二人が少々羨ましく感じる。


「ティアちゃん?」


 そんな私の心境を知ってか知らずか、心配そうにのぞき込んでくるファリスの顔が迫ってくる。


「なんでもない。ちょっと考え事をしていただけ」

「そう、それならよかった」


 ほっと一安心した様子のファリスの後ろで、ジュールが鳥車に荷物を載せ終わったようでこっちに来ていた。


「ティア様、終わりました。ですが……本当に向かうのですか?」


 ジュールの疑問もある意味ではもっともだろう。今から私は中央都市リティアに向かおうとしていた。

 いつまで経ってもこちらの捕らえたダークエルフ族を引き取りに来ない事に加えて、あの鎧の件もある。あれの存在は手紙にしたためるよりも直接出向いて説明した方がより脅威度を伝えられるはずだ。

 それに四つの拠点を町を中心に十字に配置された拠点の存在。他の地図に照らし合わせて各国にどれだけ存在しているかの確認。伝えなければならない事はいくらでもある。到底手紙に伝えきれるものではなかった。


「当然。一度しっかりと話し合っておきたかったもの。それとも、ジュールは不満?」

「い、いえ! 滅相もございません! ただ……これでいいのかと思いまして。拠点を潰すのも立派な役割だとは思います。ですが、このまま闇雲にやってもいいのかと……」


 ジュールも少しは思うところがあるようだ。彼女もあの謎の光を事を気にしているのだろう。


「それも含めて、よ。一度しっかり報告して今後の事を決めなければならないという事。他のところからも何か情報が入ってきているかもしれないしね」


 私達は独自で動いている。時折お父様あてに手紙を書いてはいても場所を転々としているから中々女王陛下からの使者はこない。それはつまり、情報も自分達で集めないといけないという事にもなる。ただでさえ少数な上、戦いばかり得意なのが二人にとても諜報活動なんて出来そうにない子が一人。他の国の使者の二人がなんとか私達を探し出してきてくれたけれど、それもかなり緊急事態だからこそだ。

 今世界中がどうなっているのか知っておいた方が今後の活動の為になる――。

 そう判断したからこそ、一度リティアへと向かうことにしたのだ。


「リティアに行くってことは、またあの人に会えるんだよね?」

「報告に行くのだからそうなるでしょうね。楽しみ?」

「うん!」


 ファリスは胸が弾む気持ちを抑えられないのか、少しそわそわしている。『あの人』とはまず間違いなく女王陛下の事だろう。以前ガンドルグ王と会談する前に話した様子からすると、多少なりとも気にしてるみたいだったからね。

 どこか嬉しそうにしているため彼女を見ていると、私まで同じ気持ちになってくる。

 なんというか、女王陛下はどこか懐かしい匂いがする。他の王にはない魅力があるというか……。それがファリスにも伝わっているのだろう。逆にジュールは何もないから、もしかしたら聖黒族にだけ伝わる感情なのかも。


「それでは行きましょう。ジュールは彼らの監視、お願いね」

「わかりました!」


 結局何日も連れて回る事になった彼らともこれでお別れとなると――特に何もないか。むしろようやく解放される安堵の気持ちでいっぱいになりそうだ。

 早く重たい荷を下ろして楽になる。その目的もついでに付け足すように手早く準備を終えた私達は、この地を後にし、中央都市リティアへとラントルオを走らせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る