485・砦の地下道

 じっくりと聞きだす時間がなかったから、とりあえず地下への道を知ってるか知らないか。知っていればどこにあるかを詳しく聞き出した。運よく(というよりダークエルフ族だからこそ知っているはずだと思っていたからこそ)地下への道を聞きだすことに成功した。悪夢でうなされている兵士達は適当に放置して、すぐさまに地下へと向かう。あんなところで眠っていたら死ぬ可能性も高いけれど、それは彼らが私を敵に回した代償という事でね。


 聞き出した情報を元に地下への道に続くであろう床を魔導で強引に吹き飛ばして、再度【アグレッシブ・スピード】を発動。ついでに暗視魔導を発動させて暗さを無効にする。一気に駆け下りていくと、いつものように部屋が――


「……あれ?」


 辿り着いた先は迷路のように入り組んでいた。いつもの簡潔な作りとは一変して複雑な道をしている。よほど重要な物を隠しているのではと思わせてくれる。

 正直こんなところで手間取っている場合ではないのだけど、ぶち破る訳にはいかない。右へ左へと次々と角を曲がって、階段を下りて進んでいく。

 恐らく帰り道は覚えていないだろう。何か目印を付けるよりも先に前へ行かないと、いつファリスが力尽きるかわからない。流石に危なくなったら撤退するだろう……と思う。確証がないのが恐ろしいところだ。

 だからこそ急いで先に進まなければならない。帰り道はぶち抜いて行けばいい。幸いにも最初の拠点と違って相当作りがしっかりしているから、威力を絞って壊せば生き埋めになるような事にはならないだろう。

 ……それも地上の砦の壊れ具合によって変わるけどね。そこはファリス次第と言っておこう。


 駆け抜けた私は、一つの大きな扉に辿り着いた。何の迷いもなく蹴り破ると、そこにはクーティノスが五体。アーマーゴレムが三体。情報に合った甲羅を背負った鉄の兵器が五体いた。なんともまあ大所帯な上に広い部屋だ。というか、既に活動していて私を敵として認識しているようだった。


「……早速出てきたわね。しかも随分多い」


 周囲に人がいないという事は、ここの守護者……という事だろう。随分戦力過多だと思うけど、この際文句は言っていられない。襲い掛かってきたクーティノスの爪を避けて【アグレッシブ・スピード】を発動させると同時にそれらから距離を取る。いくら素早く動ける獣型とはいえ、身体強化の魔導を使えば私の方が速度が上。そして最初に相対した時の部屋よりも五倍は広いというのもこちらにメリットがある。いくら魔力を阻害するとはいえ、この大部屋全域をカバーできる程のものではない。それが可能ならあの時のアーマーゴレムが群がっていた部屋でもけしかけてきたはずだ。それがなかったという事は、それなりに広い部屋を包み込む程度でなければ真価を発揮しづらいという訳だ。


「【アシッドランス】!」


 少し前に戦ったクーティノスには酸性の槍が効いた。その経験で解き放った魔導は、妨害の範囲外で発現する。濃縮した魔力が巨人が持っていたと言えば納得できる程の大きさの突撃槍を生み出して、鋭い突きを放つように投擲とうてきされる。一陣の風が吹くよりも早く、回避することもできずに直撃を受けたクーティノスは、瞬く間に崩れ落ちる。


 どうやらクーティノスの魔力妨害は範囲内入った瞬間有効みたいだ。【アシッドランス】が纏っていた魔力が幾らか弱まっていた。それでも私が範囲内にいた時よりはずっと強い。

 何度も発動させなければ効果がなかったあの時に比べて、今回は一発で上半身に甚大なダメージを与えることに成功した。

 左肩から腹にかけて抉れるように解けたクーティノスは、ごとりと頭が落ちたと同時にそのまま崩れ落ちる。頭のところに魔石を埋め込んでいたんだろう。


 普通ならそこで怖気付いたり怒ったり、何らかの反応を見せる。でもさす流石に金属の塊にそれを求めるのは酷というものだろう。残ったクーティノスは私に牙を剥いて襲いかかってくる。見たことのない動物の兵器は、動くのが遅いせいでこの戦いについてこれていない置物みたいなもので、辛うじてアーマーゴレムが付いてこれるような状況だ。


 クーティノスの爪を潜り抜け、待ち構えていたアーマーゴレムの横薙ぎの攻撃を更に屈んで避ける。そのまま距離を取って【アシッドランス】を再度放つ。二体目のクーティノスを倒す。

 やはりクーティノスは狭い部屋だからこそ凄まじい効果を発揮するのだろう。ある程度広い場所での戦闘となれば、接近さえさせなければどうとでもなる。おまけにこの兵器達はあまり頭がよろしくない。やはり『考えて行動する』という事が出来ない以上、組み込まれている命令をこなすので終わるしかない。

 つまり『敵を排除、または殺害せよ』といった感じ。そして判別はダークエルフ族と複製体のみ終わらせておけばいい。残りは全員敵って事なんだろう。単純な命令だからこそ、飛びかかるしか能がない獣が誕生するという訳だ。これに知能が備わっていれば適当に散らばって魔導の威力低下を狙う事も出来るだろうに……。


 所詮鉄の獣ではこの程度が妥当だろう。

 クーティノス達の評価を頭の中で済ませた私は、本格的に動こうとしたその瞬間――私の視界には光が広がり、一気に周囲が真っ白になった。

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