484・二つ目の拠点
手紙を書いた私はジュールに使者の人達への伝言を頼んだ後、急いで隣の領地に走る。最速で駆け抜けて近場の物を送り届ける事を生業にしている配達屋に手紙を預ける。昔は兵士や商人に任せるという手が一般的だったんだけど、今はこうしてそれ専門の事をしてくれる店がある。……正直、こんな緊急性のある時に使うようなものじゃない。でもそうも言ってはいられない。
とりあえずなるべく大きなところに手紙を預ける。秘匿性を高めたり、日時を指定したり初めて使うから結構便利そうな設定を見て興味が湧いてくる。まあ、そんな事を気にしている場合じゃないから一番高くて秘密にしてくれることを優先する事にした。
そして手紙を預けて適当な場所で食事を済ませた私は、向こうで休んだ方が良いだろうと
ジュールは見張りをしながら訓練をしたいという事で、ファリスがそれを承諾して稽古つけてあげる事になったらしい。当初はファリスが一緒に付いてくるかと思ったけど、私を一人でゆっくりと休ませたいという彼女達の配慮が伝わってきた。その好意をありがたく受け入れたおかげで体力も魔力もかなり回復した。体勢は万全。これなら真正面からクーティノスと戦ってもあっさりと打ち倒すことが出来るだろう。
そうして準備を整えた私達は、敵の見張りを再びジュールに任せて二つ目の拠点へと向かう事にしたのだった。
――
「なんだか一つ目と違って随分と――」
ファリスの感想もわかる。一つ目は廃墟になっていたのに、二つ目は森の奥で物々しい雰囲気の鉄の砦が作られていた。
よくもこんな拠点を作り上げる事が出来たものだ。見るからに頑丈そうなそれは鉄の城と見間違えそうになりそうなほどだけど、主要な部分を金属で覆っていて基本的には石造りだ。そして上と下に見張りが数人。更にアーマーゴレムが数体。ついでに土で出来た鳥みたいなのが空を飛んでいた。明らかに厳重そうな雰囲気と見た目で、最重要拠点だと言っているようなものだった。
「……これは攻略が難しそうね」
あの廃墟にはすんなり中に入れたけれど、これは流石に静かに入るには難儀しそうだ。強行突破する分には私とファリスがいればなんとでも出来る。でもそんな事をしたら大部分の敵の戦力が分散してしまうだろう。出来るだけ数を減らしたいから、その案は自然と却下だ。
となると、なんとか潜入しないといけないんだけど……ここでまた最初に戻る。どうしても現状が目標を達成させる事は出来ないと教えてくれている。
「どうしま――ファリス?」
ファリスに何か妙案があればと思って声を掛けようとしたら、そもそも彼女は私の側にはいなかった。
いつのまにか何処かに行ってしまった彼女を探すように視線を彷徨わせながら移動していると、丁度私達が来た方向とは反対の入り口付近で目を閉じて集中しているファリスを見つけた。
気づいた瞬間、背中に冷や汗が流れる。強化系や妨害系と考えても、濃密に練り上げられた魔力がそれを否定してくる。どう見ても攻撃系で……発動一歩手前みたいな感じ。今から全速力で駆け抜けてもまず間に合わない。声を出せば敵に気づかれる。そんな絶妙な距離に彼女はいた。
ちらりと視線を向けて来たファリスは、にやりと『やってやった!』みたいな笑みを浮かべていた。
「【エンヴェル・スタルニス】!!」
それが発動した瞬間。天がひび割れ、一滴の闇色の雫が零れ落ちる。それは吸い込まれるように拠点の中心に落ちていって、着地点に闇の球体が広がって拠点の一部を包み隠す。土塊の鳥も、鉄くずの鎧も……あらゆる全てを飲み込んでいく。
「て、敵襲!」
「な、なんだこれは!?」
突然の攻撃に驚いたダークエルフ族の兵士達は混乱しているようだ。だけどあの調子では地下には影響を及ぼさないだろう。こうなってしまったら速やかに地下へと入り、一気
「【アグレッシブ・スピード】……!」
ファリスの【エンヴェル・スタルニス】で発生した闇が収束したのを見計らって加速の魔導を発動させる。敵の注意は次々と放たれる魔導に気が向いている。その隙に反対側まで一気に回り込んで、見張りをしていた兵士が応援に行ってしまうのを確認して拠点の中に入る。
「【プレゼンス・ディリュート】」
自らの存在感を希薄にして周囲に敵がいないか【サーチホスティリティ】の範囲を限定して発動させる。
……全く、本当はこんな強硬手段を取るつもりはなかったのに。
でもやってしまった以上、他に選択肢はない。適当な兵士が丁度良く近づいてきた。数は三人。物陰に潜んで様子を見て――通り過ぎようとしたところを襲い掛かる。
「なっ……!?」
「貴様は――!」
「悪いけど、貴方達には用はないの」
驚いている間に一人は足を刈り取って体勢を崩したところを顔面にかかと落としを繰り出して気絶を狙う。もう一人はなんとか落ち着きを取り戻して剣を振り上げてきた。でもそれは遅い。懐に潜り込んだ私の拳が深々とみぞおちに突き刺さり、そのまま膝をついて地に倒れ伏す。
最後の一人は――怖気づいて尻もちをついてしまった。よし、丁度良いのが残った。彼にはいろいろと手早く教えてもらおう。【ナイトメアトーチャー】の悪夢の中でね。
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