475・鉄の獣
ファリスの【
絶えず魔力を放出していなければならないから、発動前よりは動きに精彩さが欠ける。
鈍重なアーマーゴレム程度に動きを捕捉されるとは思えないけれど、保険が必要になるだろう。
となれば、何か起こった時に守れるようなものがいい。
「【イグニアンクス】!!」
ファリスの背後にいたアーマーゴレムは、私が生み出した人型の炎に包まれ、呆気なく消え去ってしまう。
敵の接近に気付いていたファリスが振り向いてぽかんとした顔をこちらを見ているのがよくわかる。
「あ、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
その様子がなんとなくおかしくてついつい笑みが溢れてしまう。ファリスも随分余裕が戻ってきたみたいだ。さっきまでの血が昇って険しい顔をしていたのが嘘のようだ。
対して敵の親玉とも言えるダークエルフ族の老人は、ファリスに【
供給されているアーマーゴレムはかなり数が減ってきているけれど、全てなくなったわけじゃない。彼ならまた追いかける事が出来るし、今は目の前の敵を排除する方が先決だろう。
――
「……これで粗方片付いたね」
ようやく桜の花びらが舞い散る空間から抜け出した私達は、目の前に広がる光景にため息が漏れだした。
整然としていた鎧達の軍団は、もはや見る影もない。ただのがらくたの山ばかりだ。鉄の墓場……とでも言った方が良いかも知れない。
「流石にちょっと疲れたかしらね」
「見て見て、あそこの方」
ファリスが何か気になる物を見つけたのか、暗がりの奥を指さしていた。奥の方には何か柱みたいなのがある。暗視魔導の効果ではっきりと見る事が出来る私の目からは彼女が何を言いたいのかはっきりわかる。
「これ……通路? 奥にはまた部屋みたいなのがあるようね」
そう、柱の陰に隠れるようにちょうどアーマーゴレムが通れる程度の道が用意されていた。奥の方にはここと同じぐらい大きそうな部屋が用意されている。恐らく【サーチホスティリティ】で表示された部屋の一つだろう。高低差がわからない以上、どこかどんな構造をしているか明確に判断する事が出来ない。それがこんな形になって表れたってことなのだろう。でも――
「あの部屋に敷き詰めていたって訳ね……。道理で数だけは多いと思った」
多分この部屋だけじゃない。他にも複数の部屋があって、そこから次々とこの部屋になだれ込んで来ていたのだろう。そうでもなければあの量のアーマーゴレムが集まってくる説明が出来ない。
……全く、色々考えているものだ。万が一ここに侵入してきた者に対する防衛手段なのかも。よくもまあここまで揃えたと敵ながら多少感心してしまう。
「ティアちゃん! 早く追いかけようよ!」
ついつい部屋の全体を見ていたらファリスがじれったそうに地団太を踏むのを堪えながらあの老人が逃げて行った扉の先を指で示していた。彼を放置する訳にもいかないし、追いかけるとしよう。
「そうね。まずはファリスが先行し――」
「わかった!」
言い終わる前に走っていくファリスの顔は、まだ少し怒っているように見えた。やっぱり虚仮にされたことが余程腹に据えかねたのだろう。彼女は自分の力に自信を持っている。だからそれを少しでも傷つけれれば冷静さを欠いて黙っていられなくなる。
私のようにもう少しどっしりと構えていれば慎重に行動できると思うのに……。
なんてすっかり見えなくなった彼女の背中を追いかけていると、突然大きな地響きと爆発音。それと聞きなれないファリスの悲鳴が聞こえてきた。
「――――っぁぁぁぁぁ!」
「……ファリス!?」
初めて聞く彼女の声に思わず駆け出した。長く続く道は暗視魔導でなければ先が全く見えない程の暗闇で、多分小さな明かりを頼りに歩けば、不安や焦燥に駆られていたかもしれない。……いや、今だって心に重くのしかかるものがある。それを振り払って進めるのは、どこか心が乾いているからなのだろうか?
そんな思考さえ他人のように感じる中、何かに突き動かされるように走った私は、それに直面する。
「な、なに……これ?」
先に進んだ私が見た物――それは一言で表すのなら鉄の獣。アーマーゴレムを狼かそれに近い造形にしたらこうなるだろう……って感じのものだ。鈍色に輝くそれの牙や爪は命を狩り取るのに相応しい。
見るからに仰々しい姿をしているけれど、肝心なのはそこじゃない。ファリスの無事だ。
目の前の物体に警戒しながら周囲に視線を向ける。一刻も早く彼女の安否を……!
「ファ……リ、ス」
ようやく見つけた彼女の姿に、私は絶句してしまった。
右肩からおびただしい程の血が流れ、荒い息を吐いているファリスがそこにいた――
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