474・舞い散るもの

 私とファリスで次々と迫り来る鎧を倒していく。魔導による炎、雷、水、風と様々な力が入り乱れ、咲き誇る。


「ファリス、力を抑えて!」

「わかってる!」


 私の方はまだ大丈夫だけど、ファリスは魔導を放つ時に込める魔力が上手く制御できずに苦労している。

 あまりに強いものだと上が崩落して下敷きになるし、弱すぎると動く鎧を倒すには威力が足りない。ご丁寧にさっき戦ったやつよりもずっと強くなっていて、魔導に対する強度が格段に上昇している。


「どうかな。最新のアーマーゴレムは。生半可な魔導では倒せまい」

「うるっ……さいなぁ!! 【フラムブランシュ】!」


 年老いた男に向けて手をかざして放たれた熱線はまっすぐ奔り――彼の言うアーマーゴレムを二体貫いて消える。やっぱり天井を気にしていたらそうなるか。

 しかし、いつまで出て来るんだろう? さっきから数えるのが嫌になるくらい倒したはずなのに、一向に収まる気配がない。【サーチホスティリティ】で確認した時はこんなに数がいなかった。疑問が湧いて止まらない中、先に根を上げたのはファリスだった。


「――もう我慢できない!! こうなったら……!!」

「ファリス!!」

「だって! このままじゃジリ貧だよ!」


 どれだけ倒しても終わらない鎧達の攻撃に、焦りが募る。広範囲の魔導は使えない。威力は絞らないといけない。不満や苛立ちが溜まるのもわかる。


「ふふふ、ははは、どうした? まさか最強と呼ばれた聖黒族がこの程度とはな」

「なんですって!?」


 頭に血が昇っているファリスに対し、敵の挑発はよく効いた。次第に乱雑になっていく攻撃。そして徐々に威力の上がる魔導。


「ファリス! このままじゃ……!」

「わかってるよ! だったらどうすればいいの!?」


 半ばキレ気味に訴える彼女の言葉に頭を悩ませる。視野が狭くなっている彼女に代わって考えるのも私の仕事だ。

 何か……何かないだろうか? 上に振動を伝えず、威力が高くて、広い範囲をカバーできる魔導……。


 私じゃだめだ。【カルケルフランマ】も【コキュートス・プリズン】も一時的に動きを止めるだけだし、人はともかく無機物の動く鎧に劇的な効果があるとは思えない。鎧が溶けたり凍り付かせたりするほどの威力を出せば、周囲に影響を与える。


「ああもう……!」


 今にもファリスが【エンヴェル・スタルニス】で周囲を吹き飛ばすとか【カエルム・ヴァニタス・イミテーション】を呼び出して振り回すとかしかねない。

 ……ちょっと待って。確かに私の魔導は目立って高威力が勢ぞろいしているけれど、ファリスにはもう一つ何かあったはずだ。だけど切羽詰まったこの状況で魔導名までは思い出せず、妙にもやもやする。急がないと……! そんな焦りが私の心を蝕んでいくようだ。


「ファリス! その……貴女の魔導に小さな刃を巻き散らす魔導があったでしょ!?」

「小さな刃……?」


 ピンと来ていない彼女にもっとヒントが……ええと、そう! 思い出した!


「花びらの魔導! 魔王祭の時に使ったの!」

「……! あ、わ、わかった!」


 アーマーゴレムが振り回した大剣をしゃがんで避けてた彼女にもようやく伝わったようで、得意げに任せてくれと言いたげな表情で準備を始めた。


「くっ……まだ余裕のようだな……!」


 対して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるダークエルフ族の老年の男性。あいにく、この程度のお遊びで潰れる程軟弱じゃない。


「次作るのだったらもう少し素早く動けるようにしなさいな! 全てに置いて精通している聖黒族が、たかだか魔導への耐久力を上げたくらいで止まる訳ないでしょう!」


 襲い掛かってくる剣をわざと紙一重で避けると同時に威力と範囲を抑えた【プロトンサンダー】で撃ち抜き、迫りくるアーマーゴレムがハルバードを振り回すのと合わせて、先程の剣を拾って打ち合う。


「脇ががら空きよ。【フレアライズ】!」


 地面から現れた炎の球体がアーマーゴレムを飲み込み、その全てを焼き尽くす。それに割りはいるように現れた敵に更に一撃を叩きこみながらファリスの準備が終わるのを待つ。


「【斬桜血華ざんおうけっか】!!」


 準備を終えたファリスが発動した魔導は、桜の花びらを周囲に散らせ、幾多の鎧で埋め尽くされたそこに次々と傷跡を残す。地面に落ちた花びらは効力を失い、すぐさま消える。そして……舞い散っている間に効力を持つ性質上、天井には何の影響も与えない。


「よくやったわ! ファリス!」

「え、えへへ」


 大量のアーマーゴレムが次々と威力の増した桜の花びらに切り刻まれ、無残な姿になってその活動を止める。


「……ば、ばかな」


 全く、随分と苦労させられたものだ。ファリスのおかげで何とかなったけれど、私一人だったらもっと長い間ここに拘束される事になっただろう。本当に彼女を連れてきて良かった。


「さあ、一気に畳みかけるわよ!」

「うん!」


 私とファリスが効果適用外になっている【斬桜血華ざんおうけっか】の中では、アーマーゴレムだけがただその力を一身に受けている。片腕がもげた鎧に止めを刺すと同時に脆くなった剣を捨てて、適当に他の武器を見繕って更なる攻勢に移る。


 さあ、随分と鬱憤をため込ませてくれたのだから、ここで一気に発散するとしようか!

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