468・魔導具の力

 私を監視していた男を締め上げて手に入れた情報によると、この町はやはり集客を目的としていたようだ。幻でやってきた旅人や商人を惑わして、心地よい気持ちにさせて帰らせる。そうしてティリアースでの地位を向上させ、ルーセイド領は素晴らしい領主によって作り上げられた住みやすい町が多いと認識させる。そうして移住者を引き寄せる役割を担っているらしい。なんでそんな事をする必要があるのか何度か問い詰めたけれど、それに答える事はなかった。恐らくこの男は肝心な事は何も知らないとか……そういう事だろう。


 私の【ナイトメアトーチャー】でぺらぺらと喋ってくれていたのに、この話になると途端に口を閉ざすか曖昧あいまいな返答をされてしまい、上手く何も引き出せなかった。こういう場合は大抵何も知らないことが多い。これ以上調べても無駄だと判断した私は、とりあえず彼には悪夢を見てもらい続ける事にした。適当な樽の中に隠しておけば、魔導でも使わない限り見つけにくいはずだろう。

 残りは宿でファリス達を監視している敵だけど……どうせ何も得られない可能性が高い。それならまずは【サーチホスティリティ】で表示されている赤い点の正体を確かめた方が良いだろう。


 四隅に存在する赤い点の一つに行くけれど、特に何も変わった様子は見られない。誰かが魔導を発動している様子も見られないし、むしろ誰もいないのに違和感すらある。


「ここに何が……?」


 呟いてみるけれど、何もない事実に変わりはない。距離的にはかなり近いんだけど、これ以上はわからない。もっと限定的な場所を見る事が出来る魔導があれば――


「……あれ?」


 地図に見える赤い点に合わさる位置を探索していると、妙な物を見つけた。お香を焚く道具のように見えるそれは薄い煙を出していた。途中で消えてるから気付かなかったけれど、多分これが原因だろう。見たところ魔導具だけど、どうやって消せばいのかわからない。壊していいものかと一瞬悩んだけれど、何かあるといけないしとりあえず回収して外で壊してみるとしよう。外でなら私が何とかすればいい話だしね。


 ――


 とりあえず他の四つはそのままにしておいて、町からある程度離れたところにやってきた。今でもこの香炉からは煙が出ているけれど、相変わらず私には影響がない。外に出て何か変化があるかなと思ったけれど、道中では誰にも出くわさなかったせいかいまいち効いているのかわからない。


 開けた平野に辿り着いた私は、香炉を置いて少し離れる。


「【フリーズレイン】」


 何か適切な魔導はないかと思ったけれど、特になかったか、仕方なく【フリーズレイン】を放った。

 範囲を狭めた氷の雨に晒された香炉は、特に何の抵抗もなく粉々になってしまった。特に問題なく壊されたそれは、一瞬青紫色の煙が膨れ上がったけれど、すぐに霧散して消え去ってしまう。

 思わず身構えたけれど、特に何も起こらない。煙に悪影響があるかもと思ったからしばらく待ったけれど……本当に何もなくて拍子抜けしてしまった。


 これでは最初から壊してもあまり変わりはしない。必要以上に警戒して損をしたような気分になってしまった。

 結局何もない上、中途半端な結果に終わるくらいならなぁ……。


 どうにも微妙な気持ちにはなったけれど、町の方には劇的な効果を与えたようだ。私が戻って変化がないか探索したいみると、まるで夢でも見ていたかのような顔の人達が呆然と立ち尽くしていたからだ。

 ちょうど四隅の一角。私が香炉を持ち去ったエリアになる。全員が解除されているわけじゃないから、残った魔導具も全部潰したほうがいいだろう。


 そうと決まれば、彼らは既に用済みだ。どうせ何も得られないだろうし。一応【サーチホスティリティ】で地図を出しながら監視役の人達が移動していないことを確かめて行動に移す。

 彼らは相変わらず宿屋を見張っているようで、全員がそれなりに離れている。実際の地理を考えると、これなら敵に見つからず一人一人確実に捕まえることが出来る。


 一人目は宿屋から少し離れた露天の近くで。二人目はそこから対角線に建っている家の中。三人目は宿屋の天井で、四人目は宿屋の中。五人目は宿屋の中。六人目は少し離れた場所で他の監視者に何も起こらないように見張っていた。


 まずは一番遠い六人目から仕留めていく。その後は順々に監視役を排除していけば、ほとんど目につく事なく始末していけるだろう。

 全員の排除が終わった後は、四隅と中央に存在していた香炉の魔導具の回収と破壊を行い――町はなんとか元の状態を取り戻すことに成功する。


 しばらくは町の中で呆然としている人達がいるだろうけど、命に別状はないから恐らく大丈夫だろう。少なくとも目立った外傷はないし、魔導で治療するほどでもない。


 それより、敵もいなくなったのだからジュールの様子を見に行くのが先決だろう。彼女も聖黒族の血を宿している……とは言っても、普通にあの魔導具の効力にやられていたしね。

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