433・会議の疲れ
緊張感のある会議は更に話し合いを進め、解放された頃にはすっかり陽も落ちて夜も更けていた。
あの後の会議も終始女王陛下のペースで、ガンドルグ王は少々押され気味になっていた。
元々ティリアースが強国という事もあるけれど、女王陛下は少々もったいぶった言い回しをしたりして中々良い返答をしなかったりと……なるべく自分達に有利な条件を引き出して、それでもしばらく溜めてから頷いたり……なるべく引き延ばすようなやり方をしていた。
勿論それだけで終わるガンドルグ王ではなくて、きちんと自分達にもそれなりに恩恵を得られる形で会議を終わらせる事に成功した。
ダークエルフ族の騒動が終わった後、ティリアース軍の駐屯基地を築いてそこの近くに町を作る事になったのだ。以前から国の人口が増えてきて、新しい町を作る案が持ち上がっていたらしい。ガンドルグ王はその町への技術提供を申し出て、女王陛下はそれを受諾した。大体その辺りで周囲が暗くなっている事に気付いた二人が今日はここまで……という事で切り上げる事になったのだ。
それを聞いた瞬間、顔には出さなかったけれど内心ほっとした。
会議の途中までは私達の話を聞いたり、ヒューへの質問が多かったりしたのだけれど、後半では大体今後についてとか、軍の駐在期間や貿易に関する事――大体がダークエルフ族の拠点を全て制圧した後の話になっていた。
そこまで来ると私達は置物のようにじっと聞いておくしかなかった。陽が暮れて、空腹に悩まされている中、ただひたすら話を聞くだけ。ある意味苦痛の時間を過ごす事になってしまった。
「……なんだかすごく疲れたね」
女王陛下もガンドルグ王が会議室から出た後、私達も城の外に出て――心底疲れたような声でファリスが呟いていた。
「それはわかるが、あまり露骨に顔に出すと不敬だぞ」
「そうは言っても、後半はわたし達要らなかったんだもん。というか、なんであなたはまだついてきてるの?」
「ここまでだ。短い間だったが、これくらいしても良いだろう」
城門からある程度離れた位置でベアルは少し寂しそうにしていた。軍事拠点を制圧するところから会議が終わる時間まで――本当に短い時間だった。あっという間に過ぎたひとときだった。
ちなみにヒューはそのまま私が預かる事になった。女王陛下の元で管理する案も出たのだけれど、万が一何かあったら大きな問題になりかねない。かといってガンドルグ王の方で管理するのは王本人に断られてしまった。
曰く「複製体とはいえ、聖黒族を収め込めるほどの戦力をこの場に留める事は不可能だ」とのこと。
それも当然だろう。質を上回るにはそれ以上に数が必要だ。見た感じヒューは広範囲の魔導を使わないみたいだし、数さえあれば問題ない……のだけれど、ヒューを閉じ込めるだけの戦力を整えるよりも、今後に備えておいた方が良いという訳で――結局私のところにいたままになった。
これにはヒューが聞かれた質問には素直に答えていた事も関係している。どの拠点には何があるとか彼が知っているダークエルフ族の人数とか……知っているであろう事はほとんど包み隠さず話していた。答えていない事といえば質問されなかったことくらいだろう。そんな素直さがあって、多少監視の目が緩くても逃げ出さないだろうと判断されたのだろう。彼もこの待遇には不満はなかったようで、むしろ変に監視されるよりはずっといいと喜んでいた。
しばらくはヒューの事を監視しながら、スケジュールを組んで城に向かう事になりそうだ。
尋問中も私は側にいなきゃならないから面倒だけれど、誰かに任せてる間にダークエルフ族が何か仕掛けてこないとも限らないし、しっかりと付き添わないといけないだろう。
「そこの男の事、くれぐれもよろしくお願いします」
「ええ。任せておいて」
ベアルが真剣な表情で念押しするけれど、ヒュー自身は逃げ出す素振りは見せなかったし、多分大丈夫なはずだ。
そもそも逃げ出そうと思うのなら、既に何らかの形で実行しているはずだしね。だから一応力強く頷いておいた。
「俺も信用ないな」
「当たり前だ。つい最近まで敵だった奴をそう簡単に信じる事が出来る訳がない」
ため息混じりに苦笑いするヒューに眉根をひそめながら両腕を組んだベアルの言う事も当然だ。むしろ簡単に信じる事が出来る私の方がある意味異常なのだしね。
「まだしばらくはここにいる事になるから、また会いましょう」
「はい。それでは……またヒューの尋問で」
敬礼をしたベアルはそのまま私達がいなくなるまでじっとこちらを見送っていた。ファリスはちょっと鬱陶しい顔をしていたけれど、彼の生真面目さが見いだせた瞬間でもあった。
ヒューの尋問がなかったら久しぶりにお母様やリュネーに会いに故郷の町に戻りたかったけれど……これもダークエルフ族が関わってるなら仕方がない。今は手紙を送って、いつか顔を合わせる事が出来る日を楽しみにしておくことにしよう。
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