432・二カ国会議の模様
「久方ぶりだな。ルティエル女王」
「願うならば、このような形で邂逅したくはなかったものだがな」
旧友とあいさつをするような気軽さで言葉を交わす二人だけど、その様子は真剣そのもの。笑みを浮かべているけれど、目は全く笑っていない。
「旧交を温めるのも悪くもないが……生憎、そのような時間もない。本題から話すことにしようか」
ガンドルグ王の視線が私達に向かい、お父様と女王陛下も私達に注目してきた。大まかな事は知っているだろうけど改めて話した方が良いという事だろう。
「……長くなりますが、よろしいですか?」
「ある程度は知っているが、改めて聞けば新たな発見もあるかもしれん。多少長くなることくらいは問題ないが……そちらはどうかな?」
「うむ、我らは国の内部にダークエルフ族共の拠点があるという事実だけしか知らぬからな。こちらとしては願ってもないことだ」
あんまり長々と話をしても――とは思ったけれど、しっかりと話した方が良いのだろう。
「……こほん。ではまず私達がダークエルフ族の拠点に行く事になったところから――」
魔王祭で戦ったファリスとローランから複製体の情報を聞き、襲ってきたダークエルフ族達と一緒にやってきた複製体の一部がこちら側に寝返って、彼らから拠点の位置を教えてもらった事からそれがきっかけでガンドルグに侵略用の拠点の一つがあることが判明。そしてガンドルグ王に書状を送り、なんとか信頼を得て拠点の攻略に臨んだ――という経緯をなるべく簡潔にわかりやすく説明していく。途中で何度か質問もされたけれど、それにも出来るだけわかりやすく話をした結果、結構な時間を費やしてしまった。
だけどその甲斐あって、一応全員が納得できる程度にはなった。
「最後に、これがその拠点で手に入れた地図になります。それぞれ写しを作成しておりますので、お二人に譲渡いたします」
お父様とヴァティグに一つずつ地図を渡し、二人から女王陛下とガンドルグ王の手に渡る。
「そちらの地図ですが、現時点では赤が軍事。青が補給。黒が複製体を作りあげている生産や居住に重点を置いた拠点だと判明しております」
「ほう……よくわかったな。それはそこの複製体が教えたのかな?」
「地図を見ればわかると思うのですが、赤点の位置が全国地図とサウエス地方の地図とではほぼ同じです。私の隣にいるヒューにも確認を取ったので、それは間違いないと思われます」
ガンドルグ王が感心するように地図と私達を見比べていた。適当に推測で言っているとでも思っていたのかもしれない。
「なるほど。大体の事はわかった。ヴァティグからの報告もにわかに信じ難いものが多かったが……信じるしかないようだな」
長く説明をし続けていたから、結構に疲れた。喉も何度か潤したけれど、途中で何度も質問されたから余計にね。
「エールティアの活躍によって拠点の一つが潰されたが、この調子では他の国にも同じような拠点が存在するだろう。また、ここに存在する拠点も一つとは限らない」
ガンドルグ王の言う通り、拠点なのだからこれが一つとは限らない。ガンドルグ一国だけでも数か所は拠点がある。その中の一つを潰しただけにしか過ぎないのだ。
「ガンドルグ国がこの調子であるならば、ティリアースも似たような状況になっているのではないか?」
「つまり……互いに協力しあって拠点を全て制圧しよう。そう言いたいのだな」
ルティエル女王陛下はすぅっと目を細めて、くすりと笑みを漏らした。ガンドルグ王の言いたい事はわかる。聖黒族を含めたティリアースの軍が後ろに控えてくれるならば、それだけで安心感が段違いになる。
だからこそガンドルグ王はどこか必死になっているのだろう。
「端的に言えばそうなるな。もちろん、ただで……とは言わない。近々ワイバーン発着場を増設する予定になっている。より発展を遂げるためには他国との交流は貴重だからな。だからこそ、ティリアースに優先的に使えるように取り計らおう。商人や他の者の行き来が増えれば、様々な方面で楽になるはずだ」
「しかしそれもいつまでも、という訳にはいくまい。いずれは解消される近くの未来より、遠くの未来の事を見据えた事を考えるならば……あまり気軽に返答は出来ぬな」
「確かに聖黒族ばかりを優遇するのには限度がある。だからこそ、輸入するにあたって幾つかの項目を見直して、そちらに有利な貿易を行おう。ただ商人達を優遇するよりもよほど利益が出るだろう。詳しくは後日改めて話を詰めるという形にして、今はどうか納得してもらえないだろうか」
「ふむ……」
今女王陛下の頭の中では損と得の二つの感情がせめぎ合っているみたいだ。個人的にはこの条件はかなり破格だと思う。結局のところ軍隊もいつまでも留まる訳じゃないし、それこそ女王陛下の言葉を借りるならいずれは解消されるはずだ。その条件がこちらの有利になるような条件での貿易の見直し。しかもこれは話題に上がるまでずっと変わらないだろう。
まっすぐ自分達がどれだけ必死なのかアピールしているガンドルグ王の提案は普通に受け入れて良いほどのものなのだけれど……ルティエル女王陛下が頷いたのはそれからじっくり数分後。ガンドルグ王が不安そうな表情を少しずつ見せ始めてきた頃合いの出来事だった。
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