427・一つの区切り
ヴァティグが抜けてヒューが加わった私達は、行きと同じ人数でガリュドスの町に帰ってきた。
私達を出迎えてくれたファリス、ジュール、レアディ、アロズの四人は不思議そうな顔でヒューに注目を集めていた。
ベアルが変な事を言う前に私が説明すると、ファリスとジュールは『流石エールティア!』みたいな視線を向けてきて、雪風の事を素直に称賛していた。アロズは半ば現実の出来事を上手く飲み込む事が出来ないようで、相変わらず驚きながら私達と雪風、ヒューと視線を移していた。
一方――
「甘いな。だから一度死ぬような事になんだよ」
ヒューと似た感想を口にしたのはレアディだった。
その発言にジュールは嫌そうに睨むけれど、肝心の彼は全く興味を持っていなかった。それに対して更にジュールはヒートアップしてしまう。
「どこが甘いんですか! 遺される人の事を考えるのがそんなに悪いんですか!?」
「当たり前だ。何処にいると思ってんだ? 戦場だろうが。そんなもん抱えてる奴なんてな、星の数ほどいるんだよ。そいつらと戦う時も一人一人想いやって戦うのかよ。馬鹿にしてんのか?」
食ってかかりそうになるジュールだったけど、それはファリスに止められてしまう。だからレアディの言葉の雨をそのまま浴びる形になってしまい、余計に火に油を注いでしまう結果になった。
……ガキには付き合ってらんねぇ割にはきっちり言い返す辺り、余程思う所があるのかもしれない。
「エールティアの姫さんはどう思うよ。あんたもおんなじか?」
放っておいたらこっちに飛び火してしまった。ジュールの方も期待する視線を向けてくる辺り、答えないという選択肢は用意されていないらしい。
どう答えようかと思案していたけれど……二人があまりにも圧力を掛けてくるから仕方なく答えることにした。
「……大切な人は誰にでもいる。だからこそ、戦っている相手にそれを重ねてしまうのも否定できない。雪風がヒューが庇護している子ラミィってこの事を思い出して刃が止まるのもね」
私の言葉にジュールはさも当然のように胸を張って得意げな顔をしていた。それに対してレアディから残念そうな視線を向けられているのがわかる。
二人とも、まだ気が早いと言うか……やっぱり仲が良い部分もあるようだ。
「最後まで聞きなさいな。それでも、理解出来るだけ。私だったらそんな事気にせずに殺すわね。確かに彼らにも大切な人がいるのでしょう。だけどそんなもの、誰にだってあるもの。一々気にしていたら、戦うことすら出来なくなる。何のために自分が戦っているのか……それだけは頭に入れておかないとね」
雪風の選択は間違ってはいない。だけど、それは今誰も犠牲になっていないからだ。もしヒューが暴れて私が怪我をしたとなれば、それだけで雪風の今後の人生に影響があるだろう。そのまま逃げられても、余計な情報を持ち帰られてしまうだろう。
だからこそ、命を奪うと決意したなら
今度は彼の方が納得した顔を浮かべ、ジュールが不満そうにする。こればっかりは仕方ない。
「……それで、この人はどうするの?」
これ以上話を続けても意味がないとファリスがヒューへの処遇を聞いてきた。
「まずはガンドルグ王とお父様に報告しましょう。それまでは私たちが見張っているしかないでしょうね」
こうして連れてきてしまった以上、最後まで面倒を見ないといけない。
……まあ、監視は私が行えば問題ないでしょう。雪風だったら、たぶんまた迷うだろう。レアディとアロズにはそこまでの信頼がある訳でもない。
「……それしかないですね。でしたら私に――」
「いいえ。彼は私が見張る事にする。聞きたいこともあるし、彼自身かなり強い。雪風でも苦戦したくらいだしね」
まともに相手が出来るのはファリスくらいじゃないかと思う。レアディとアロズは彼と同じ施設の生まれで、今まで一度も勝てなかったらしいし、雪風も抑え込むのは難しいだろう。ジュールはファリスと一緒に何かしているみたいだけど……まだまだ任せられないかな。
「ですが、ティア様は拠点の方にも行ってお疲れなのでは――」
「ありがとう。だけど大丈夫よ」
ベアルとも約束したし、彼は絶対に逃さないように動かなければならない。最悪手にかける必要が出てくるから、それが出来る人じゃなければ見張りの意味はない。
「だったらわたしと交代でしよう? そしたらティアちゃんの負担も少しは和らぐよ!」
ここで勢いよく手を上げたのはファリス。彼女なら確かにヒューとも互角に戦えるはずだ。町の被害は大きくなりそうだけど……そうなる前に私も動けるだろうし、すぐに彼を制圧する事も出来るだろう。
「それじゃあ、私とファリスで見張りをしましょう。ベアルそれでいいわね?」
「こちらとしてはヒューが逃げ出さなければ問題ありませんよ」
ベアルの方も私たちの好きにすればいいとお墨付きももらえたし、ここは私とファリスでヒューを見張る事にしよう。
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