415・再び訪れた地

 北から一気に南西地方に帰った私達は、この地方独特の暑さに少々苦しめられることになった。妖精族の国樹の影響で絶えず穏やかな気候になっているとはいえ、真逆の寒い地方から帰ってきた私達からしたら十分暑い。だけど久しぶりに感じたサウエス地方の風と温度は、帰ってきたことを喜んでいるように思えた。

 ……ちょっと感傷的になったのかもしれない。


「久しぶりのサウエス地方ですね。どうせならこのままアルファスに帰りたいですけど……」

「今はそういう訳にはいかないでしょう。それなら僕達が可能な限りエールティア様をサポートして、早く帰れるように頑張るしかないです」


 ジュールがアルファスに思いを馳せているのを嗜める雪風。二人の気持ちは伝わってくる。

 本当は一度戻りたいのだけれど……私は学生である前に王族であり、女王候補とはいえまだ確定じゃない。領地も持たないし魔王祭に出て優勝できる程度には力を持っている。身軽に行動出来ている以上、私がダークエルフ族を止めないといけない。


 お父様やお母様ならきっと国の役に立てる事を考えて行動するはずだ。だから私もそのように振舞わないとね。


「ここまで一緒に色々としてきたけれど……レイアも帰っていいのよ? 心配している人もいるでしょうに」

「ありがとう。だけど大丈夫。今は少しでもティアちゃんの力になりたいから」


 少し照れるように笑うレイアの可愛さに癒されながらありがたみも感じていた。

 今私達のメンバーはジュール、雪風、レイア、レアディ、アロズ、ファリスの六人だった。

 アルフと雪雨ゆきさめは国に一度戻る事にしたらしく、マデロームで別れる事になった。


 アイビグとスゥは雪雨ゆきさめについて行くことにしたらしく、ローランは大勢でいても仕方がないとアルフと一緒にドラゴレフに行った。

 残った男性は結構クセがある二人組だけど……そこに不満があるかと言えばそうでもない。


 レアディもアロズも並以上に仕事はしてくれるし、飲酒さえ許してればあまり不満を爆発させることはない。

 ジュールは嫌な顔をする事が多く、彼らとあまり仲がよろしくないけれど……雪風はそうでもなかった。

 大分揉めることになったと聞いたけれど、帰ってきてからはある程度性格を把握したのか、よっぽどの事がない限り口を出すことはなかった。


 ファリスは相変わらず私とべったりだけど、時折ジュールと一緒にいる事が増えた。以前のようにぎこちない関係は徐々に緩和されていって、普通に話していることも多くなったくらいだ。


 みんなが少しずつ良い方向に変わっている気がする。そんな彼らのリーダーのような役割の私は……どうなんだろう?

 今度聞いてみたい気もするけど、実際思っていたよりも悪かったら落ち込みそうだから後回しにしている。


「エールティアの姫様よ、ガンドルグの王様にはちゃんと話を通してんのか?」

「なっ……! 当たり前じゃないですか! ティア様がいきなり殴り込んでくるなんて非礼、犯すはずがありまけん!」


 何気なく聞いてきたレアディに噛み付くジュールの姿は、昔の彼女を思い出させる。

 違う点といえば、レアディが全く相手にしていない事だろう。以前何故かと聞いてみたけど、その時は――


 ――「ガキのヒステリックに一々付き合ってられるほど暇じゃねえ」


 ――って鼻で笑って余裕そうにしていたっけ。

 そこまで至るという事は、レアディにとってジュールは歯牙

 にもかけない存在だということだろう。

 可哀想だけれど、こればっかりはどうしようもない。意見を通したければ力を示すしかない。その機会はまだずっと先になるだろうけどね。


「ジュール、落ち着きなさい。それとレアディ……ガンドルグ王にはきちんと事情を説明しているから大丈夫よ。正式な書状も持ってるしね」


 ガンドルグ王に事前に手紙を送っていたおかげで、この国での行動をある程度許してもらえる書状を手に入れる事が出来た。ただし、護衛にガンドルグの兵士を二名を送る――という一文が付け加えられていたけれどね。

 それも仕方ないだろう。書状は貰ったけれど、それだけで好き放題されては国としても思うところがある。だからこういう監視役が必要というわけだ。


 で、今は町に着いてその監視役を待っているんだけれど……少し時間が掛かっているようだった。

 それも相まってレアディの方は少し苛々しているようだった。


「エールティア様御一行でよろしいですか?」


 待っていた私達のところに現れたのは二人の男性。一方は熊の耳で、もう一人は白い虎の耳の獣人族だ。


「貴方達は?」

「申し遅れました。私達はガンドルグのビーティア王から貴女方の護衛を仰せつかっております。私がヴァティグ・ガンドルグ。向こうの彼はベアル・メノービです」

「よろしくお願いします」


 それなりの人物が来ると思ってたけれど、まさかガンドルグ王家の一人が出張ってくるとはね。

 意外な人が護衛(監視)役に送り込んできたな。ここに来ている以上、怪我が云々とは言わないだろうけれど……彼に何かあると今後の外交に問題が発生するかもしれない。

 私達にとっては厄介だけれど、彼らからしてみたらこっちの方が厄介だろうし……素直に受け入れておこうか。

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