400・ウルウェーズの拠点(雪風side)
町から山の方へと進んだ
「気を付けて進めよ。ここら辺は結構登りにくいからな」
ひょいひょいと慣れた調子で進んでいくレアディとアロズに対して、鬼人族の二人はあまり登り慣れていないせいか歩きにくそうにしていた。それでも
「もう少しやから、頑張りや」
「……ありがとう、ございま、す」
若干疲れた様子で歩く雪風に寄り添うように歩く速度を落とし、励ますような声を掛けるアロディ。先程のやりとりで妙に気まずさを感じていた雪風は、少し顔を逸らしてしまう。
中腹辺りまで登った頃――四人は休憩所のような掘っ立て小屋が見えてきた。
「あそこだ」
「あれ? 適当に作られた家にしか見えませんが……」
レアディの指さした掘っ立て小屋を訝しむ視線を向ける雪風。どうもいまいち信用していない彼女の目を気にせず中に入ると、そこにはいたって普通の内装。テーブルに椅子が設置してあり、隣の部屋には三人くらいなら泊まれるようにベッドが設置されていた。
どこからどう見ても普通の家で、ダークエルフ族が使っている拠点には到底見えない。
「どこにもそれらしき場所はないじゃないですか」
「ま、ぱっと見ただけだとそうだろうな」
雪風の反応を楽しそうに眺めながら、レアディはベッドを動かした。そこには何もなく、ただ床があるだけだった。
口には出さないが、不審そうな視線を向ける雪風。それを気にせずに床を触り――何かの小さな板を取り出した。
「それは……?」
「ここを外すと隙間が出来るだろ。ここからこうやって――」
隙間に手を差し込んで、ゆっくりと開く。特に引っかかりもなく開いたそこは空洞になっていて、下に続く階段が存在していた。魔導具の照明が用いられていて、階下が良く見えていた。
「こんなところに……」
「見た目ただの小屋だからな。ここは滅多に人が来ない。ベッドの位置が少し変わってわからないって寸法だ」
「ですが、開けたままだとすぐにわかるんじゃないですか?」
「そこは入った後で蓋をすればいいんだよ。出るときは別の入り口を使えばいいんだしな」
なるほど……と雪風が頷いている間に、レアディは何のためらいもなく階段を使って降りて行った。アロズ、
階段を下りる音と四人の息遣いが聞こえてくる。いくら魔導具によって明るいとはいえ、陽の光が当たる外よりは薄暗い。普段はこういう場所に訪れない雪風は、少し息苦しさを感じていた。
お喋りだったレアディも黙り、他の二人も黙々と降りていく。しばらく無言で降りて行った先――そこには幾つもの道が繋がっている空間だった。他の拠点を知っている者からしたら見覚えのある光景が広がっている。
「ここ、他にも道があったんですか?」
「そうや。やけど、ここ以外は他のとかち合う可能性があるさかいな。やからわざわざここを選んだんよ」
「……あの、もう少しわかりやすく喋ってもらえませんか?」
「仕方ないやろ。これがぼくの話し方やねんやから」
狐人族の方言が激しいアロズの言葉を一度飲み込む雪風は、多少うんざりとした様子だった。
「アロズの話し方はこの際どうでもいいだろ」
「いやどうでもいいて……」
「俺ははっきりわかる。それで問題ねぇってことだ」
言いたいだけ言ったレアディは、幾つも分かれている道の内、真ん中の広い道を進んでいった。
アロズはそれにどこか感激した様子で後を付いて行く。
「……どうにも疲れますね」
「そういうのと上手く付き合っていくのも今後のお前の仕事になるんだろ。エールティアに近寄ってくる連中は、どれも一筋縄じゃ行かないだろうからな」
ふふっ、含みのある笑みを浮かべて、
このままここに突っ立っているわけにもいかず、雪風は心をしっかり整えて、三人の後を付いて行った。
奥まで進んだ一行は、大きく広い空間が広がっていた。他の拠点と全く変わらないそこは、唯一違う事があった。
それはフレルアの時と同じように部屋の中に装飾が施されていたのだ。華やかなレースやカーペット。テーブルや椅子も並べられていて、ティーカップが置かれている。明らかに生活感のある様相にレアディ達は困惑していた。
「なんだか随分綺麗な場所に来ましたね」
「レ、レアディはん……」
「落ち着け。……おい、気を付けろ。ここに俺達が知らない奴がいるぞ」
急に真剣になったレアディの声に、
「なんでわかるんだ?」
「こんなファンシーな趣味のダークエルフがいてたまるか。明らかに俺達がいた時と様子が違う」
穏やかな雰囲気のなか、四人だけが明らかに場違いな緊張を宿していた。
しかし、いくら待ってもここにいるであろう第三者は現れない。
「……あー、もう面倒くさい。さっさと入るぞ」
「レ、レアディはん! ちょっと待ってや!」
痺れを切らしたレアディは、部屋の奥へと進み、ダークエルフ族が使っているであろう生活空間の部屋に入っていく。
アロズもそれについて行き、鬼人族の二人だけが残される。
「……どうしましょう?」
「行くしかないだろう。あいつらだけにする訳にもいかないからな」
ため息を漏らしながら追いかける
――四人の足並みは一向に揃わないままに。
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