399・騒動の発端(雪風side)
レアディとアロズは酒場へ。
「あー、昨日は良く飲んだな」
「あの色宿も当たりやったなぁ。狐人族の女も抱き心地最高やったわ」
集まってまず最初に話し出したのは情婦との一夜についてだった。雪風は顔を真っ赤にして聞いている一方、
(こういう男の人っていうのはみんなこうなんでしょうか? 不潔ですね……)
朝から聞きたくもない一夜の遊びを聞かされた挙句、顔が真っ赤になる程恥ずかしい思いをさせられる。そんな経験など全くないうぶな雪風にとって、屈辱以外の何者でもなかった。
「で、そろそろ案内してもらっていいか?」
ちらっと雪風に視線を向けた後、
「ま、そうだな。いつまでも話してるわけにもいかねぇし……さっさと行って終わらせるか」
「レアディはん、酒の準備は終わっとるで」
それなりの量が入りそうな大きな瓶を軽く掲げてにやりと笑うアロズに、レアディは同じように笑い返し、親指を立てて上機嫌になった。
「貴方達、まだ飲むつもりですか!?」
酒を持って行くとは思わなかった雪風は、信じられないと言いたげにレアディ達を見ていた。
昨日は昼から延々と酒盛りしていただろうに、更に酒を用意している事実に驚愕を隠せなかったのだ。
「当たり前だろう。俺達にとって、酒は水と同じだ。それにこれくらい、飲んだ内に入るかよ」
「貴方達……」
呆れた声で睨んだ雪風は、とりあえず自分を抑えようと軽く息を整える。こんな事で一々怒っていては仕方がない。そう自分に言い聞かせ、冷静を保っている間に、話は進んでいく。
「
「お前達が自分の仕事をしっかりしてくれたらそれでいい」
獣の姿をした種族が多い中、人にかなり近い四人の中でさえ一人孤立している気持ちになるのも仕方ないだろう。
「雪風はん、そんなかっかせんといてな。レアディはんも今しとるのが重要なことなのはわかっとるから」
「……だったら」
「?」
「だったら、もう少しきちんとしてください。僕達は遊びに来ているんじゃないのですから」
雪風の気持ちを落ち着けようと話しかけたアロズだったが、取りつく島もなく玉砕してしまった。
「あっはっは! なんだアロズ、お前そんな小娘もいいのか?」
「そうやあらへんよ。ちょっと励ましたろう思うただけですわ。ま、もうちょい成長してたらツバつけときたくなるけど」
更にそれにトドメをさすように茶化すレアディに対し、更に怒りを蓄積させ、それを抑え込む雪風。しかし――
「なぁ、嬢ちゃん」
「……なんですか?」
「もっと肩の力を抜けよ。俺は別にお前と事を構えるつもりはないし、お前だってそうだろ? そりゃ、堅物のお前には俺のやってる事は気に入らねえだろうけどよ。俺は俺で真面目にやらなきゃならない事ぐらいわかってる」
「……本当か怪しいものですね。貴方達は元々複製体で、僕達とは敵同士でした。エールティア様の刀であるからこそ、気軽に信用することは出来ません。信用する事ができる証拠を、貴方がたの行動で示してもらいたいのです」
宥めようとするレアディに対し、更なる不信感を募らせる雪風は、今にも腰に差してある刀を抜き放ちかねない程警戒していた。一触即発。それを止めたのは――
「……おい、いい加減にしろよ」
殺気に近い怒気を放っていた
対する雪風の方は気圧されてしまっていた。今
もちろん、彼女の理性がそれを拒んでいる以上、現実にはならないのだが……それほどの緊張感が周囲を包み込んでいた。
「雪風。お前も今は喧嘩してる場合じゃない事くらい、わかるだろ?」
「それは……」
わかっている。そう言うのは簡単だが、
「少しは歩み寄る事を覚えろ。こうやって一々足を止める事の方が無駄なんだよ。それからレアディ」
「……なんだ?」
「あまり雪風を煽って面倒事を増やすな。度が過ぎるようだったら、こっちにだって考えがある」
「ほう、それはどんな妙案だ?」
挑発せずにはいられないのか、楽しそうに笑い、戦意を溢れさせるレアディ。その様子に
「決まってんだろ。強い奴が正しい。それが鬼人族のルールだ」
息をすることすら困難になりそうな程の重圧。レアディと
「わかった。お前とやり合って無事でいられるかわかんねぇしな。ここは従ってやるよ」
ひらひらと手を振って降参のポーズをとって苦笑いを浮かべるレアディに、矛を収め、いつもの様子に戻る
こうして、最初の諍いは収まった……が、その後もどうなるか……それは未だにわからぬことなのであった。
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