390・拠点捜索(ファリスside)
フレルアに許可をもらった四人は遠慮なく拠点の中を探索する事になった。
アルフとレイアは資料室へ。ローランとファリスは牢屋の中へと――
「中々見つからないわね」
資料室組であるレイアは、片っ端から本を読み漁っていた。だがそこもエールティア達が見つけた拠点と同じように、上辺は特に目立つ物のない内容の本ばかりで、具体的な手掛かりを見つけられずにいた。
フレルア自身は我関せずと言った様子で手伝う気はなかった。
「そっちはどう? 何か見つかった?」
「いいや、大したものは見つからないよ」
ため息を零したレイアに同調するよう疲れた様子のアルフが本を戻していた。
資料室に入ってからどれだけの時間が経ったかわからない程熱中していた二人のところに牢屋に行ったローラン達が入ってきた。
「こっちは収穫なかったけど、そっちはどうだった?」
あまり期待していない声音に、ファリスはうんざりするような視線を向ける。それだけでアルフ側も収穫がなかったと伝わってくるからだ。
「こっちには何もなかったって事かな?」
「いいや、シュタインも含めて彼らの考えている事は『相手の裏を掻こう』ということばかりだ。何か隠し部屋があるかもしれない」
ローランの言葉にレイアは納得したが、アルフは疑うような視線を向けていた。彼らはそれだけの時間、長い間探索して何も見つけられなかったのだ。牢屋側で何一つ成果を得られなかった彼の言う事を素直に信用する事が出来なかったのだ。
「結構な時間探したけれど、何も成果がなかった。これ以上無闇に探しても意味がないと思うな」
「……それもそうね。私もローランと同じ意見だけど、なんの手掛かりもないなら、探そうとすること自体時間の無駄かも」
アルフの意見に賛同するファリス。何もわからないこの状態で見つかるかも不明な場所を探す事――それこそ、砂漠の中に消えた物を探すようなものだ。
「……なら、フレルアに聞いてみるっていうのはどうだ?」
「教えてくれるかな?」
レイアはフレルアの事を思い出しながら疑問を口にする。フレルアがどういう人物かほとんどわかっていない以上、質問に答えてくれるか不明な点が残る。それは四人共同じように抱く事だった。
「だけど、聞いてみないと始まらないでしょう? 教えてくれないなら……力尽くで聞きだせばいいじゃない」
「無茶言うな。短時間の戦闘だけど、彼の実力は十分に伝わってきた。魔導なしじゃ俺達は歯が立たないだろう」
ファリスとフレルアの戦闘を冷静に分析したローランが呆れて笑いながら首を横に振った。
数々の戦いを潜り抜けてきたローランから見ても、フレルアの実力には目を見張るものがあった。並外れた近接戦闘のセンス。余裕を見せながらも冷静に相手の動きの先を読むような対応をしてきた。
この中では一番強いと評価しているファリスでさえ、フレルアに一歩及んでいなかった。
勿論、魔導や武器を用いた勝負ではまた違った結果になっただろうが――少なくとも格闘戦という観点からみたら、フレルアはファリスよりも抜きんでていた。
そんな相手に力尽くで聞き出そうとするファリスに、苦笑を禁じ得ないのも無理のない話だろう。
「でも聞いてみる事自体は悪い事じゃないだろう。もしかしたら答えてくれるかもしれないしな」
少しの話合いの後、結局出た結論は『実際に話を聞きに行く』だった。
手がかりはないけれど、何かある可能性は高い。それならば、少しでも目的地へ辿り着ける選択肢を増やすべきだという事になった。
四人は資料室から続く王座の間で静かに寛いでいるフレルアの方へと向かった。
「どうした? 何か収穫はあったか?」
「……いいや、目新しいことは何も。だから聞きに来たんだけれど……フレルアは何か知らないか?」
「うむ、知っているぞ」
だからどうした? と言わんばかりの表情のフレルアとは相対的に驚き、信じられないと言わんばかりの四人の戸惑う表情がそこにはあった。
「……だったら、初めから教えてくれても良かったんじゃない?」
「聞かれなかったからな」
あまりにも堂々とした表情と態度に疲れ気味になってきた四人だが、だんだんフレルアの性格が掴めてきた。何を聞かれても動じないその姿は一国の王そのものにも思える程。
「それで、我に教えて欲しい、と?」
「……ああ。頼めるか?」
「良いだろう。ただし――」
にやりと不敵な笑みを浮かべるフレルア。一行は嫌な予感がしたが、ファリスだけは好戦的な笑みを浮かべ、次の言葉を待った。
「――我に力を示した者にのみ教えてやろう。それ以外の方法は一切認めぬ。己が実力を示し、見事手に入れてみせるがいい」
強者としての余裕の笑みを浮かべ、四人を見渡している。それはまるで、目の前の料理をどう食べようかと考えている捕食者の目のそれだった。
どうあがいても逃げる事が出来ない――その事実にローランは嘆息してしまった。
ファリスのおもり役として気苦労が絶えないその姿は、正に苦労人そのものだった。
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