386・チーム『アルフ』(アルフside)

 エールティアがダークエルフ族の拠点を見つけた時――次にダークエルフ族の拠点まで辿り着いたのはチーム『アルフ』だった。


 彼らの担当した場所は北地方の最南端。中央と北の境に近い場所にある小国だった。

 久しぶりに訪れた故郷とも呼べる国。降り立ったローランの心境は……特に何の感慨もなかった。


 今まで過ごしてきた日々や、苦労が絶えなかった人生。それらを考慮しても全く何も思い浮かばない事に、ローランはどこか『薄情さ』を感じてしまっていた。


(こういう時、懐かしさとか嫉妬とか……何か思うはずなんだけど、ここまで特に何も思わないとは思ってもみなかった。少しは俺も人間らしさがあると思ったんだけれどな)


「何考え事してるの?」


 ローランの悩みを見透かすかのように呆れた様子のファリスが近づいて来た。


「いや、久しぶりに帰って来たな……って思ってさ」

「ついでに特に何も感じないな、なんて思ってたんじゃない? 変なところで律儀なんだから」


 あー、やだやだと両手を広げて首を横に振ったファリスに対し、少しだけムッときた様子のローランは、一度軽く深呼吸して落ち着きを取り戻す。


「普通だったら何か感じる物だろ? 幸せでも不幸せでもさ」

「わたし達にとってそんな普通はなかったでしょう。あの薄暗い場所に戻れば思うところもあるでしょうけど、ただ生まれただけでほとんど見たことのない国の事なんて、興味なくて当然でしょう。正直、わたしはこの国名とか住んでる種族とか全く知らないから」


 冷たく切り捨てるように吐き捨てるファリスの姿に、それが普通なのかとローランは思い直すことにした。

 言われた通り、彼もこの国がどんな国かなんてほとんど知らない。生まれて訓練を積んで……その後はシュタインに連れられて様々な場所を飛び回る日々。他国の事の方がよほど記憶に残っているくらいだ。


「二人とも、道を案内してもらってもいいかな?」


 ローラン達にとっては短くても、アルフ達にとっては十分に長い時間が過ぎた頃。痺れを切らしたアルフが若干申し訳なさそうな顔をしていた。


「あ、ああ。すまない。ついつい……」

「いいや。僕も自分の故郷に帰ったら色々思うところはあると思うしね。そこは構わないよ。ただ、時間をそんなに取ることができないから申し訳なくてね」


 どうも話が噛み合わないのは仕方がない。アルフには彼らの話が聞こえていなかった。二人で思うところがあるのだろうとそっとしておいたのだ。

 この場でローラン達がどんな事を話していたのか察することが出来たのはレイアだけだった。


「……ありがとう。それじゃ、早いところ行こうか」


 気を遣うように笑ったローランは、三人を促すように先に進む事にした。アルフに聞かれていなかったのを安堵しながら。


「はぁ……ティアちゃんがいたらもっと楽しい旅になったんだけどなぁ」

「仕方ないだろう。ここに彼女がきたら、明らかに戦力過多なんだから」

「それはわかってる。けど、そうだったらいいのにって思うくらい良いでしょ?」


 ふんっとファリスはそっぽを向いてしまった。その様子に呆れた笑みを浮かべるローランだったが、彼は彼女がエールティア以外に懐くことはまずないをしっかりとわかっていた。


「案内は俺に任せてくれ。ファリスは敵が来ないか警戒をお願いしたいのだけれど……」

「……それくらいならいいわよ。だけど、ティアちゃんがいないならやる気ないから。そこのところだけ覚えておいて」


 つっけんどんに接してくるファリスに対し、アルフとレイアはどう接すればいいのかいまいちよくわからなかった。

 なんとも言えない空気が周囲に満ちて、レイアは思わず深いため息を吐いた。


(これで本当に、このチームはやっていけるのかな?)


 それは恐らくファリス以外の誰もが思っている事だろう。しかし、誰もがそれを口にすることはない。

 堰を切ったらあふれ出すように、止まらなくなるかもしれないからだ。


 下手をすればチームワークを乱しかねない存在だけれど、エールティアに関する事以外はあまり興味がない。その上今はそのエールティアの命令で共に行動している為、それを言えばある程度はいう事を聞いてくれる。それも相まって彼女の事は放っておこうと三人の中では見解が一致していた。


「それで、どうする? 一度町で宿を取ってから行くか? それとも直接向こうに?」

「一応宿を抑えておこう。使うにしても使わないにしても、あった方がいいと思う」

「そうね。私も賛成だけど……ファリスちゃんは?」


 レイアに話を投げかけられたファリスはあまり興味なさそうにはしていたが、一応考えているような仕草を取っていた。


「……そうね。今後の事も考えたらいいんじゃない。あまり長居はしたくないけどね」

「決まりだね。まずは宿。それから食糧を確保して、ダークエルフ族の拠点に乗り込もう」


 様々な不安要素を抱えながら、チーム『アルフ』はどこか微妙に噛み合わないままに動き出したのだった。

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