387・小国に存在する拠点(アルフside)
拠点近くの町で宿を取ったアルフ一行は、ローランの案内によってダークエルフ族の拠点に辿り着いた。
森の奥深くに木々でカモフラージュされて見えにくいようにされていた入り口が存在して、ローランやファリスがいなければ決して気付くことが出来なかっただろうくらいだ。
「……変ね」
いざ中に入ろうとした時、ファリスはぽつりと呟いた。
「何が変なんだ?」
「……気付かないの? 誰かがここを出入りしてる跡がある」
神妙な顔をしているファリスだが、彼女の心配事はいまいち他の二人には伝わらない。ローランだけはその言葉で険しい顔をしていた。
「拠点の入り口なんだから、誰かが通るのは当たり前だろう」
素朴な疑問を口にしたアルフに、突っかかる事もなく首を左右に振ったファリスは、警戒心をあらわにしていた。
「拠点への入り口は幾つかあるけれど……ここはその中でも一番使われていないところなの。緊急用って感じね。絶対……とは言えないけれど、まず他の出入り口を使うはず。つまり――」
「何かがあってここにいた人が逃げた……って事?」
「もしくは入ったって事ね」
どちらかはわからないが、もしこの出入り口を使って拠点の中に入ったとしたら――自然とそんな未来を想像してしまう。全員が警戒態勢になり、互いに目配せしながらゆっくりと中へと入っていく。
「油断しないようにね」
「……わかってる。もうあんな無様な真似は絶対できないもの」
心配するレイアの言葉にライニーに不意打ちされた挙句スライムに取り込まれた過去を思い出したファリスは、苦虫を噛み潰したかのような顔をして先頭を行く。
(いつもはどこか素っ気ないけれど……こういう時みんなの前に出て行動する彼女は、存外優しいのかもしれないな)
ファリスの行動に好感を抱いたアルフは、どこか心の中でほっこりしつつも警戒しながら先に進んでいく。
複数の入り口が一つに交わった部屋に辿り着いた四人は、慎重に扉を開け――大きな広場のような部屋へと出た。
そこには――
「……珍しいな。ここに客が来るなどと」
全身黒づくめの少年がそこにはいた。整った顔立ちに切れ長の目。成長するのが楽しみである容姿に人目を引く黒い翼。黒竜人族なのは見て明らかなのだが、複製体に『黒竜人族』は基本的に存在しない。
始祖フレイアールから連なる血筋は、歴史的に見ても未だ浅いからだ。
今までの傾向から、初代魔王の世代からそれ以前の強者を複製体の候補にしている事は明白であり、最近誕生した黒竜人族は候補から外れている可能性が非常に高い。
必然的に目の前にいる少年は竜人族となるのだが――アルフとレイアは自分の同胞だとはっきりとわかってしまった。
それは理性や外見の印象などではない。本能がそう感じたのだ。
「……誰?」
残ったファリスとローランも戸惑いを隠せなかった。彼女達がいた時にはいなかった存在。少なくとも産まれて数年も経っていない複製体であり、彼女達の足元にも及ばない存在――なのだが、得体の知れない不気味さを感じていつでも戦える準備を整えていた。
「無礼な客人め。我が名を知りたくば、そちらから名乗るが良い」
「そう。別に知りたくないからどうでもいいわ。でもね、わたしはここで生まれたの。客っていうのとは少し違うわ」
「……ふん、同胞か。そこの二人もそうか?」
ちらりと向けられた視線の先にはアルフとレイアがいた。少年の方もこの二人に何かを感じているのだろう。その視線は探るようであり、訝しむようであった。
「そこのふた「小娘、貴様には聞いておらん。疾く口を閉じよ」
まるで喧嘩を売られたから売り返したような応答だったが、ファリスの苛立ちに火をつけるには十分だった。そこを速やかに抑えたのはローラン。まるで、次にファリスがどう動くのか分かっているような反応の仕方だった。
「……っ!? ローラン、離して」
「何もしないならな。少しは頭を冷やして話を聞け」
「わたしは落ち着いてるわ。ただ、躾のなってないトカゲに教えてあげようとしただけよ」
「それが落ち着いていないっていうんだ」
深いため息が漏れ出たローランだったが、殺意を感じで慌ててその場から離れた。
空気を塗りつぶすかのような溢れ出る殺気の中。それを放っていたのは黒竜人族の少年だった。
「……我が名はフレルア。この地を管理する者」
「あら、名乗らないんじゃなかったの?」
「墓に入れる者の名前ぐらい知りたかろう。そこまで狭量ではない」
トカゲ呼ばわりされたことが腹に据えかねたのか、引きつった笑顔を向けるフレルアに、再びため息を吐いてファリスを止めていた手を離した。
二人の表情から戦いが止められないことがはっきりとわかったからだ。
唯一の救いなのはフレルアの標的がファリスのみであることだろう。
「……こうなったのはお前のせいだからな。なんとかしろよ」
「わかってる。貴方は早く離れなさい」
(……本当にわかっているのか?)
一抹の不安を抱きながら、それでも巻き添えを食うわけにはいかないとローランは静かに二人から離れた。
アルフもレイアも危険を感じて距離を取り――子供のような挑発や言動から生じた幼稚な戦いが今、幕を開けた。
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