383・オルコーの手記
――
ここに私――オルコー・サリアッタは書き記す。我らの本願が成就する瞬間はもう間もなくであると。
エルフ族と悪魔族は長年虐げられてきた。かつて絶滅したはずの忌々しい聖黒族とアールヴ族のせいで、栄華を極めた我らの祖先は闇に葬られ、地の底まで堕とされる事になった。
かつてのあったと言われる栄光の日々。強大な力を持つフェリベル王の元で穏やかに暮らしていた祖先を蹂躙した悪しき種族のせいで今の時代まで、我々は泥水を啜り続けてきた。
だがそれも終わる。【
忌々しい時代の生み出した化け物共を模した生活は屈辱でしかなかった。この化け物共のせいで我らは今、辛酸を舐めさせられ続けているのだ。
これがどれほどの苦痛か……汚らしい種族共が我が物顔で道を歩く世界を生き、物事の道理もわからない連中が我らの同胞を虐殺し、迫害する。そしてその元を作った者どもとの共同生活を強制される。これほど不条理な事があるだろうか?
いいや、ない。目の前にエルフ族が失墜し、今日までの恥辱を与え続けた元凶が……例え複製体であっても目の前に存在する。我らが。そして祖先が受けた辱めの全てを返してもまだ足りない。はらわたが煮えくり返りそうな程の想いを抑えて暮らす日々など、地獄に等しい。
しかしそれもようやく報われる。複製体の連中は【隷属の腕輪】を身に着け、我らの命令には逆らえない。そして従順な者には多少の恩赦を与え、より忠実な駒へと変貌させる。
化け物の複製体が表の世界を蹂躙する日に胸を躍らせながら、ようやくここまで辿り着いた。表の世界は浄化され、我らこそが真のエルフ族としてこの世に君臨する。数多の苦しみを受けた我らが、今度こそ思い知らせてやるのだ。
我らエルフ族こそ、この世界を統べるに相応しい高貴な種族なのだと。過去何度も栄光を取り戻そうと奮闘した英霊達の努力が報われる。聖黒族を滅ぼし、アールヴ族に制裁を加える。猫人族も獣人族も家畜へと堕とし、狐人族も妖精族も……全てを支配する。
その先が今から楽しみだ。聖黒族、アールヴ族……必ず滅ぼす。滅ぼす滅ぼす滅ぼす滅ぼす――
――
ぱたんと本を閉じて深いため息を吐いた。恨み妬みが綴られたこれはある意味呪いの本だと言っても良いだろう。
よくもこんな手記を綴ったものだ。反吐が出る。
私の近くにいたジュールも言葉を失っている。当然だ。一応最後まで読んでみたけれど、結局出てきたのは現状の不条理を嘆いて、それを聖黒族と現在のエルフ族に棚上げして恨み言を吐き散らしているだけに過ぎないものだからだ。
だけど――
「これで一つ分かった事があるわね」
「わかった事?」
「彼らが聖黒族とエルフ――アールヴ族への復讐心の深さがね」
わざわざ手記に残す程なんて尋常じゃない。精神的苦痛を和らげるためとはいってもね。
「それがわかっても何の意味があるのでしょうか?」
結局具体的な事がわからないなんて意味がない。ジュールの言いたい事もわかる。
「恨みや怒り。妬み
「えっと、つまり――」
「つまり、全世界に宣戦布告をした以上……次に動くのは聖黒族かアールヴ族の国のどちらかって事」
まあ、聖黒族が狙いというのは最初からわかってるんだけど……今回の収穫はアールヴ族にも同程度の憎しみがあり、再び彼らを『支配』したいという欲求があるという事だろう。
となれば、次に目指すのはアールヴ族の国・ルヴムヘイムの可能性が非常に高い。
「聖黒族が並大抵の力では太刀打ちできない以上、何か手ごまが必要になる。そうなれば、【隷属の腕輪】で御しやすく戦力になりややすくく……そして聖黒族と同じ位恨みを募らせているとなれば、一つしかないでしょう」
確証と呼べるものはないけれど、今後の事を考えると、十分視野に入れてもいい。もちろん断定はできないから、後は他の子達の収穫次第になるけれど……。
「どうです? それなりに役に立ってでしょう?」
「……そうね。こんな悪趣味なのじゃなければ尚更良かったんだけど」
見つかる度に燃やしたくなる本ばかりだ。もういっそこの資料室事吹き飛ばしたくなってきた。
……流石にそんな事をしたらヒューリやクーロと戦う事になりかねないから出来ないけどね。
「ですが、彼らの凶悪さは伝わったと思いますよ。手記に残す程の憎しみを宿した彼らは、必ず成し遂げるという想いが……」
「……はあ。その通りね」
ヒューリがここに案内してくれたおかげで、私が想像している以上の悪逆だという事もわかった。
彼らは必ずアールヴ族に仕掛ける。それは聖黒族と戦うより近い未来な事には間違いなかった。
今回は色々知る事が出来た。彼らの思想。ほとんど邪悪と呼んでも良い魔導の数々。これだけでも十分に収穫はあった。後は、他の人達に任せよう。
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