358・ようやくの戦闘

 複製体のレアディとアロズを仲間に引き入れる事が成功した私達は、引き続き他の戦場へと向かう事になった。行く先行く先誰かが戦ってくれているから結構楽だけれど……意外にこちらに戦力を送っていないのだろうか?


 ……いや、そんなことはない。魔王祭のおかげで未来の実力者が揃っているこの王都に戦力を送り込まないなんて有り得ない。足止めするには十分な戦力が必要だし、生半可なのを送っても瞬く間に制圧されてしまい、他の国に援軍として向かってしまうかもしれない。


 あらゆる国に一斉に攻撃を仕掛けるという性質上、戦力に余裕があるとは思えない。それほどまで強大な国家であるなら、わざわざ地下に隠れていないでティリアースを制圧するなり、他の国を気付かれないように乗っ取って流通を断てばいい。

 やり方はいくらでもあるのにわざわざこんな方法を取っているという事は、本当の目的を隠しているという事。なら……早くここを制圧してレアディから情報を聞きださないといけない。


「ティアちゃん、やっぱり奥の手が気になる?」

「……ええ。ファリスは何か聞いてない?」


 彼女が知っていればそれに越したことはない。レアディの有用性が薄れるんだけど……とも思うけれど、まず知らないだろう。

 知っていたら、絶対に私に話しているはずだからね。


「ごめんね……わたし、そういうのは興味なくて……」

「いいえ、大丈夫よ。だからそんなに落ち込まなくていいからね」


 明らかにしょげているファリスを慰めるけれど、効果は薄いようだ。

 なんでも完璧にこなせる人なんていない。私やファリスは戦いに特化しているのだから、情報や駆け引きなんかは多少苦手でもいい。出来る人がいるなら、その人に任せればいい。


 万能な人なんてこの世にいないんだから。


「……あ! 見えてきたよ!」


 話しながら走っていると、今度は誰も戦っていない場所に辿り着いた。

 流石に三度めはなかったようだけれど……倒れているこの国の兵士達もいる。


「ファリス、救助の方をお願い。私は……」


 目の前で暴れていた見たことのない大きな鎧と相対する。生きている感じがしない。多分、何らかの魔力で動かしているのだろう。

 それが数十体。大きい割には動きが良くて、並の兵士達以上の能力を感じる。


 私達が来たことに反応した鎧達は一斉に動き出して、私とファリスに襲いかかっていく。


「ティアちゃん!」

「自分の事を案じてなさい!」


 襲いかかってくるのは六体。随分と数を用意したと思うけれど……。


「生憎、その程度で仕留められるほど安くはないの」


 振り下ろされた剣を紙一重で避けて、近づいたと同時に鎧の胸の部分に手を当て【プロトンサンダー】を収束して発動させる。

 これによって広範囲に放つよりも威力を高めつつ、被害を抑える事が可能になる。


 胴体に大きな穴が空いた鎧はよろよろと後ろに数歩下がって崩れ落ちる。その間に別の鎧が切り払うように斬撃を繰り出してきて、私は後ろへと跳ぶように避ける。


 そのまま穴の空いた鎧を確認すると、それはぴくりとも動かず完全に置物となっていた。


「……やっぱりね」


 魔力で動くようにするなら、どうしても核になる物が必要だ。性能が高ければ高いだけ、動かす物の内部を魔力で循環させる必要がある。

 核が大きければ、その分だけ性能が良くなる。この大きさの鎧をあれだけの速さで動かそうというのなら、核もその分大きくないといけない。


 頭部は外れればそれで魔力の循環が途切れてしまう。かといって分散して設置するなら絶妙なバランスが必要となる。

 必然的に胴体にするしかない。その分強固になるからデメリットも十分メリットになるんだけど……まあ、私には無意味なものだ。

 一撃で貫けるなら、こんなのはただの動く的でしかない。


「面白いじゃない。【レフレクリヒト】!」


 襲いかかる五体の鎧に狙いをつけて魔導を発動させる。折れ曲がり、地面や壁に当たって反射する光の線が次第に強力になっていく。

 十分に威力のついた光線は、五体の鎧の胴体を瞬く間に貫いて、元の姿に戻してあげる。


 がらがらと大きな音を立てて崩れ落ちた鎧を他所にファリスの方に視線を向けると――

 案の定、鎧どもをガラクタに変えてしまっていた。


「お疲れ様」

「えへへ、ちょっと物足りなかったかな」


 ぺろっと舌を出して楽しそうに笑うファリスの様子から察すると、あれくらいなら大軍で来ても問題なさそうだ。

 だけど……問題は兵士達だろう。


 近付くと、痛みに苦しい息を吐いている者もいれば、生き絶えている者もいた。


「ティアちゃん。こっちもダメな人がいたよ。何人かはぎりぎり生きてるけれど」

「わかった。それじゃ、息のある人はこっちに集めてちょうだい」

「はーい」


 随分と軽い調子だけど、ファリスはこういう光景を見慣れているのだろう。顔色ひとつ変えていない。

 騒がられるよりは随分とマシだけどね。


 死んだ人達には悪いけど、今はこのままにさせてもらおう。

 心の中で冥福を祈りながら、ファリスが連れてきた人達に回復魔導を発動させる。


 救えた命がある。それだけがせめてもの救いだろう。

 ――なんて、過去にあれだけ殺した私がそれを思うのはおかしな話しだろう。

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