293・どんでん返し
『す、すすす……すごい! まさか……レイアちゃんが勝っちゃうなんて!!』
興奮冷めやらぬといった様子で声を荒げるシューリアだけど、気持ちはわかる。正直、私もレイアがアルフに勝てる可能性は低いと思っていたからだ。
ジュールと同じ、レイアも一年前は本当に弱かった。とてもじゃないけれど、今のように勝てる未来が全く見えない程に。
確かに私との決闘で彼女は力を見せてくれたけれど……それでもアルフと互角以上に渡り合えるような感じではなかった。
「……まさかあれほど成長しているとは思いませんでした」
「そうね。あれには私も素直に驚いたわ」
見たこともない人造命具を扱って、更に魔導の種類も前よりぐっと上がっていた。まさかあそこまで強くなるなんて思ってもみなかった。
それに……【
魔導が大幅に広がっている昨今、まさかこんな魔法を見る事が出来るなんてね。
あれだけの規模の魔法なら、かなりの魔力を消耗したはずだ。
『まさかレイア・ルーフが勝利を収めるとはな。我も驚きを禁じ得ない』
『クフ、だけどよく頑張ったと思いますよ。アルフ皇子の人造命具がもう少し機能していれば……勝敗はわからなかったと思います』
オルキアの言う通り、今回の勝敗の一つは『自分の人造命具をどれだけ使いこなせたか』にもあるだろう。
自分の魂の一部を形として具現化させる魔導。だけどそれを使いこなせるか、そうでないかは本人の技量による。最初から自分の実力を全て引き出せる訳ではないように、人造命具もその特性をしっかりと理解しないと宝の持ち腐れというやつだ。
それを考えると、レイアはよく自分の人造命具の特性を掴んでいたと思う。あの冠は複数の白い球体を生み出し続けていた。魔導と融合させる事でその魔導の威力を増す事も出来るし、相手の動きを封じる為に動くことも出来る。
指輪の方も魔導に作用する物みたいだけれど……冠のようにはっきりと目に見える特徴がある訳じゃなかったし、実際戦って見ながら感覚を掴むしか――
「……どうしました?」
「ちょっと考え事をしてただけよ」
一瞬、レイアとどう戦うか考えていた自分がいた。それだけ今のあの子と戦う事を楽しみにしている……という事なのかもしれない。
でも、この魔王祭には強敵と戦いたいという想いが少なからずあった。だからこそ、こんな風に考えたのかもしれない。
最も優勝に近いと世間で騒がれていたアルフに対し、レイアが勝利を収めるというどんでん返しに興奮しないなんてこと、普通ではありえないだろう。
それだけの事を彼女はやり遂げた。同じ学園の出身として、友達としてとても誇らしい気持ちになる。
だけど――
「エールティア様と戦う可能性があるから……ですね」
「あら、まだ私とは決まってないんじゃないの?」
「ふふ。貴女様が負ける姿なんて、想像も出来ませんよ」
勝って当然。と胸を張ってるけれど、普通ならプレッシャーを感じてもおかしくないと思う。
……まあ、そんな物を感じているくらいなら、とうの昔に潰れていると思うけどね。
「確かにあの子は強い。まさかあの決闘以降、あそこまで成長するとは思わなかった。だけど――」
それでも、私が負ける事はない。そう自信を持って言えるのは、自分の実力を正確に理解しているからだ。
「さて、と……せっかくだから、喫茶店か宿でお茶にしましょう」
「レイアには会われないのですか?」
「次会うときは決闘の場で。その方がいいでしょう」
向こうも私が勝ち上がってくることを確信しているだろうしね。
それなら、舞台の上での決闘の方が見栄えがあるというものだ。
「では、宿にしますか? せっかくですから、北国堂のお菓子を買って帰りましょう」
「ん、それいいわね」
一か月はここに滞在する事になるんだし、普段買えない物を買って食べておかないと損と言う者だろう。
南とは違ってお酒を使ったお菓子も多いし、濃い味付けの料理も多い。普段食べないものだから新鮮さがある。
出来るだけ色々な物を楽しみたい。それに加えてあまり外れを引きたくない。それを考えたら、必然的に知名度が高い場所が良いという訳だ。私も色々と下調べをしていたけれど、それは雪風も同じだったようだ。
やはり魔王祭の一日は有意義に使われるべきだからね。
闘技場の外に出ると、相変わらずの寒さで体がちょっと震える。中が快適な温度をキープしているだけに、余計に冷える気がする。
「明日は休みでしょうが……明後日はどうなるでしょうか?」
「予定通りじゃないなら、何か知らせてくるでしょう。私達は待つだけよ」
流石にあの規模の魔導――いや、魔法を使われては、戦場となったあそこも整備する必要があるだろう。
今日のスケジュールの締めで、シューリアとガルドラが茶番を交えながら言っていたしね。
至る所ぼこぼこになっていて、凍り付いてるんだから仕方がないだろう。
しばらくは……甘味でも楽しむとしよう。
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