292・赤と黒の竜(レイアside)
一部を除いて誰もがアルフの勝利を確信していただけに、多少の傷を負いつつも姿を表したレイアに、会場は静まり返っていた。
『……【人造命輪・ラッドリッド】』
レイアはもう一つの人造命具である指輪を見せるように手の甲を見せる。両手の人差し指に装備されているそれは、赤と黒。二つの色をしていた。
この人造命具と魔導。二つの組み合わせでアルフの攻撃を乗り切っていたのだ。
『……馬鹿な』
『どうやら、甘く見ていたのはそちらのようだな』
まさか自分の魔導が防がれるとは思っていなかったアルフは、僅かばかりの動揺を見せる。それはレイアとの勝負の最中には致命的だった。
『【ファングレイジ】!』
現れたのは狼の牙。二つが交差するように襲い掛かる中、
とっさに剣と盾で受け止めたアルフだったが、魔導の力が思った以上に強く、更に驚きの表情を浮かべた。
人造命具というものは、自らの魂から生み出されたもので、この世に現存するどんな鉱石よりも硬く、ひび割れる事はない。アルフも頭の中では分かっている事だったが、レイアの【ファングレイジ】は、その常識を覆すような力を感じてしまった。
それが尚更、彼の中で焦燥を募らせる事になる。
『【オーバーアビリティ】!!』
再び自らの限界を超え、弾き飛ぶように後退し、更に左右に
だが、肝心のレイアは……それがどうしたと言うかのように落ち着いていた。
『右手に炎。左手に土――』
左右で顕現した魔力を、両手のひらを合わせる事で一つにして、新たな魔導を生み出す。
『降り注げ……! 【メテオブレイズ】!』
レイアの周囲を複数の燃えた土の塊が回り、上空に昇っていったのちに勢いよく降り注ぐ。
それは、二人の戦場を縦横無尽に焼き払う。
惑わすつもりが、むしろ動きを止められてしまったアルフは、レイアが更なる攻撃に転ずる前に行動を起こす。
『【サンダーレイ】!』
放たれた雷の光線がまっすぐレイアの方に飛んでいき――彼女はそれを片手で受け止める。
『雷を……炎と風に!!』
残った手に炎と風の魔力の塊を生み出して、アルフの【サンダーレイ】と合わせる。それは古の魔法。二つの魔力を混ぜ合わせ、全く新しい魔法を生み出す技術。例え自らのイメージに沿った魔導が主流に――魔法が廃れつつある現在でも、決して見劣りしない魔法だった。
『吹き荒べ! 【トレストルナード】!』
三つの属性が激しく混ざり合い、炎の竜巻が生み出される。己の魔導を糧とされたアルフは、信じられない物を見ているかのような表情をして、とっさに
『【ウルブライド】ォォォォォ!!』
更に魔導を発動させ、対抗する。しかし――
『……【フリーズコロナ】』
左手に具現化する氷の太陽。
『【マウンテンプレッシャー】』
右手に具現化する崩落の大地。その二つを合わせ、一つに。かつて使われた古の魔法を組み合わせた完成系。始竜の扱う魔法を竜人族の『
『【メテオーズ・アブソリュート】!!』
会場の全てを包むかと思うほどの大きな氷の隕石。どこに逃げても回避不可能な程の大きさの隕石の周辺に、小型の隕石が追従していた。
『な、なんだこれは……?』
『……【
アルフの戸惑う声に応えるかのように、ガルドラの驚愕に満ちた説明が入る。
もはやほとんどの者が知らないこれは、初めて見る者にとっては魔導のように感じるだろう。聖黒族に次ぐ圧倒的魔力量を誇る『竜』の名前を冠する者だからこそ、扱う事が出来る魔法。
『【ドラゴティックロア】!』
あまりの大きさにどうすればいいのかわからなかったアルフは、ひとまず魔導で打ち消してみる事にした。熱線は確実に【メテオーズ・アブソリュート】によって発生した氷の隕石に当たったのだが――
『まさか……』
隕石に命中したのはいいのだが、全く意味がない。誰が見てもわかる通り、本当に『当たった』だけ。一切砕ける事のない隕石は全てを飲み込む為にアルフに襲い掛かる。
『……このままでは、貴様も巻き添えになるのではないか? 道連れにするにしては随分と仰々しい魔導ではないか』
今の自分ではどうする事も出来ないと判断したアルフは、せめてレイアも巻き添えになる事に笑いを浮かべる事にした。寒さが全てを支配する中……レイアは再び人造命輪を、アルフに見せつける。
『この【ラッドリッド】がある限り、私は自ら放った魔法・魔導の効果から守られる。死ぬのは貴様だけだ』
『……そうか。ならば――我の敗北を潔く受けよう』
諦めるように笑みを浮かべたアルフは、氷の隕石の直撃を受ける事にした。ここでレイアに攻撃をしようとしても、届く前に魔導を発動されて終わりになる事が目に見えていた。
魔導をそこそこに、剣に――近接戦闘を重点に仕上げたアルフ。
近接戦闘は最低限に、【化身解放】の効果で能力の底上げを図り、魔導戦を主軸に置いたレイア。
対になる二人の戦いに……とうとう雌雄を決する事となった。
アルフにとって唯一心残りな事。それは人造命剣の能力を最大限活かすことが出来なかった事。ただそれだけだった。
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