289・黒竜人族の激闘(レイアside)
「驚いたな。まさかここまで力を付けていたなんてね」
斬撃の応酬をしながら、アルフは面白くなってきたとばかりに微笑みかけてきたが、それはレイアの攻撃をより鋭くさせるだけだった。
「どう? これが私の……今の実力! 【フレアレイ】!」
ジャマダハルの刃の先端から細い炎の光線が発射され、不意を突かれたアルフは、とっさに剣で防御する。高威力の魔導に踏ん張りが効かず、足で地面を擦るようにずり退がり、隙を作ってしまう。
「くっ……!」
直撃を免れたとはいえ、火の粉によって多少の熱さは感じる。
それに加えて計算外に強くなったレイアへの驚き。【フレアレイ】によって体勢を崩された事を含めると、アルフの行動が制限され、レイアの追撃が彼の命を奪いに行くのも当然の帰結だった。
「貰った――!」
「……甘い!」
勝利を確信したレイアに油断が生じる。それはほんの僅かな気の緩み。だが、アルフがそれを見逃す筈がなかった。
左胸を突き刺そうと襲い掛かる刃を、アルフは手を突き出すように受け止めて阻止する。
驚いた表情のレイア。ぽたぽたと赤い血を流しながらも、痛みに顔を歪める事なく、真剣な顔をしているアルフ。
「……この程度で僕をやれるだなんて、やっぱりまだまだだね」
「【ガイアプレス】!」
余裕を浮かべるアルフの言動が
「【パルスブレイク】」
そこからアルフが取った選択肢は、魔導で応戦し、その土塊を破壊する事だった。
砕けた土塊は、周囲に降り注ぎ、それに注意が逸れていると判断したレイアは果敢に攻めに転じた。だが――
「二度も通じる訳がないだろう? 僕だってそこまで浅はかじゃないさ。【オーバーアビリティ】!」
短い間だけ身体能力を己の限界以上に引き出す魔導。それによって得た爆発的な加速は、レイアが反応できる速度を優に超え、アルフに勝利をもたらすであろう一撃を繰り出させる。
「こっ、のぉぉぉぉぉ!!」
迫り来る下段からの一撃を、レイアは強引に受け止めようと刃の軌道を逸らす。それは確かに成功し、九死に一生を得た形になった。
――だが、それは【オーバーアビリティ】の効果が切れていない時の話だった。
骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げても、己の限界を超える魔導のお陰で、アルフの刃は防がれたと同時に弾かれるように離れ、レイアの首を斬り落とそうと迫り来る。
それに対して斬られるのを覚悟で手を伸ばして剣を掴もうとしたレイアだったが、それすらいち早く反応したアルフは軌道を変え、上段から振り下ろす斬撃へと変貌する。
誰から見ても確実に仕留めたと思える瞬間。レイアの目には、永遠に思える程の速度で迎える『終わり』。鮮やかな彩りを失って、世界がモノクロへと変わっていくような錯覚すら受ける程の『最期』。
(これで終わる? まだ、何にも出来てない! まだ……私は、戦える!!)
それでいい。心の中から。脳内から……その声は確かにレイアの元に届いた。その瞬間、レイアの視界には色が戻り、世界の速度がいつもと同じように過ぎていく。
「【化身解放】!!」
レイアの
『まだ……私は負けておらぬ!』
赤と黒の鱗。そして青色を宿した目は輝き、高貴さすら醸し出す。黒竜神族。レイアが手にした『覚醒』により目覚めた姿だった。姿が変わる前にジャマダハルは外し、投げ捨てた為、現在の彼女は素手。だが、それすらも問題とならない。
レイアの爪は、普通の武器よりもよっぽど鋭かったからだ。
「まさか……『覚醒』した……!? 僕と同じ……!?」
鱗によって防がれ、硬い感触が伝わってくるのもそっちのけで、アルフはただひたすら驚いていた。
ほんの一年。アルフにとって、何の期待もできない時間でしかなかった。
自らの未熟さ。拙さ。弱さを思い知らせるためだけに約束をした。エールティアの側は、お前には相応しくないと。
だが、結果は彼の想像の遥か上を行った。自らと互角以上に渡り合い、一度は追い詰めるところまで行った上、本来であれば竜神、黒竜神族しか使えない【化身解放】を使用するにまで至ったのだ。
(まさか、たった一年でここまで成長するなんて……どうやら、僕は彼女の底力を見誤っていたみたいだ)
振り下ろされる爪による一撃をかわしながら、アルフは冷静に考える。今自分が持っている剣では、レイアの爪には太刀打ちできない。防いだ瞬間に剣が壊れる事が目に見えているからだ。
考えている間に放たれるレイアの爪撃は、一つ一つが命を削り取るような威圧感すらする程だった。
「くっ……【オーバーアビリティ】!」
迷わず再び発動した魔導の効果でレイアの猛攻を避け切り、一気に距離を取る。だが、それを許さないというかのように、同等以上の速度でレイアは迫ってきた。
(今の状況は圧倒的に僕に不利。ならば――)
「【化身解放】!」
アルフが選んだ選択――それは、自らも竜となり、全力の状態でレイアを迎え撃つ事だった。
黒竜人族の名に恥じない人型の黒竜となり、燃え滾るその瞳で、真っ直ぐとレイアを見据える。
その目は、自らと対等であることを認めた者の目だった。
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