258・決闘後夜

 決闘も終わり、これ以上外で色々話すより、一度落ち着くところに行こう……その私の提案は、すんなり受け入れられた。

 アルティーナも状況がわからない今、下手にこちらを突っぱねるのは得策じゃないと判断したのだろう。色々思うところもあるだろうし、私のことが気に食わないだろう彼女にとって、賢明な選択だと思う。


 兵士達もいつまでもそこに留めておく訳にもいかず、とりあえず口止めだけしておいて、各々が仕えている領地に戻すことになったんだけど……あの人数じゃ、絶対に無理だろう。


 そして、兵士達の報告は流れるままに広がって、黒幕の耳に入る事になる。それまでに突き止められれば良いんだけど……思い通りに運ばないのが現実というものだ。


 色々と考えることは多いけれど、とりあえず近場の宿を抑えて、話はそこからだろう。


 ――


 エスリーア公爵派の領土にある町の一つ。そこにある宿の一室で、私達は再び顔を合わせる事になった。

 ただ、全員という訳じゃない。ジュールとウォルカは雪風と訓練をしに行ったし、レイアとリュネーは疲れたらしくて部屋に戻っている。フォルスは一人で勝手に寝てるから、ここにいるのは私とオルキア。それとアルティーナとフラウスの四人だ。

 フラウスは一度移動する事になった時に【リラクション】を掛けたおかげか、いつもの調子に戻っていた。


「……エールティアさん。お礼だけは言います。助けていただいて、誠にありがとうございました」


 出迎えてくれたアルティーナは、丁寧な言葉を述べてくれるけれど……今までのギスギスした関係からじゃあ、嫌味でも言ってるかのようにしか聞こえない。


「気にしないでちょうだい。私も貴女には色々と聞きたいことがあるから」


 外行きモードじゃなくて、普段通りの話し方をすると、一瞬驚いた表情を浮かべて……それからすぐに勝ち気な感じの笑顔を浮かべた。


「そうでしょうね。貴女はそういう人ですから。それで、私に何が聞きたいのかしら?」

「そうね。一番初めに……まず、なんであんな決闘状を送ってきたの?」


 あの決闘は、エスリーア公爵家から持ち掛けたものだ。普通だったら正気を疑われるような内容なのだけれど……アルティーナもそこまでの愚物じゃない。何か理由が――


「……何を言ってるのかしら? あのふざけた決闘状を送り付けてきたのは、貴女の方じゃない」

「いいえ、最初の決闘状はエスリーア公爵側から送られてきましたよ。その後リシュファス公爵側から多少内容の付けたしが行われ、その確認の為に再度送りなおしました」

「嘘……」


 信じられない物を見ているような表情を浮かべたアルティーナは、確認の為にフラウスに視線を向けるけれど……彼の方も全く心当たりがないようだ。


「私が付け足したのはエスリーア公爵夫人についてと、隷属の腕輪の主人をお父様に変更したくらいね」

「そんな……そんなの、信じられない!」

「……畏れながら。私はエールティア姫様の仰る通りだと思います」


 意外にもフラウスから援護してもらったけれど、そのせいでアルティーナが物凄い目つきで彼を睨んでるけれど。


「……なんでそう言い切れるの?」

「お嬢様も気づいておられるはずです。何もやましい事がないのでしたら、イシェルタ様がこのような事をするはずがありません」


 イシェルタ――確かエスリーア公爵夫人の名前だったっけ。確かに、彼女達に魔導を掛けられる者がいるとするなら、最も近くにいる人になる。それに二人とも何か思い当たる節があるようだ。


「でも……」

「私達は、あの御方に操られていたのです。今にして思えば、ウィンギア様がお嬢様にお会いにならないのは――」

「言わないで!!」


 フラウスの言葉を遮るように大きな声をあげるアルティーナは服の裾を強く握り締めて震えていた。


「お父様は……ちょっと忙しいだけだから。だから……」

「……申し訳ありません。お嬢様」

「盛り上がってるところ悪いのですが、今回の決闘はエスリーア公爵は知らないのですか?」


 どこかしんみりしていた雰囲気をぶち壊すオルキア。もう少し空気を読んで欲しいものだ。


「……わからない。お父様はもう三年くらいお姿を見ていないから……」

「そんなに? 領地の運営とかはどうしてるのよ。貴族との付き合いとか……当主じゃないと出来ない仕事って多いと思うけれど」

「それは全部、お義母様が領主代行としてやっていたの。お父様も諸外国にコネを作るためだから忙しいと……」


 俯くアルティーナだけど、多分今までそれを信じていたんだろう。力なくベッドに座った彼女は、酷く傷ついているように見える。

 ……彼女の心がなんとなくわかるけれど、それを思いやっている場合じゃない。


 最悪……エスリーア公爵――ウィンギア様は、命を落としている可能性があるからだ。

 それも、今私達が敵対している公爵夫人――イシェルタ・エスリーアの手によって。


 それが事実なのだとしたら、イシェルタ伯母様は聖黒族を殺した大罪人となる。次に何をしでかすかわからない以上、早急に捕らえる必要があるだろう。

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